愛しのディアンヌ

 つまはじき者として疎まれてきた俺も、残酷な世界とも調和しているかのように感じられる。澱んだ心を解き放ちたい。メロディーで彩れば世界はまろやかになり幸福なものになる。

 すると、たちまち看守が反応して角の部屋から飛び出してきたのである。怒鳴り散らしてばかりの野郎だ。こいつは、今朝、小さな男の子を蹴り飛ばしていた。小柄な男の子は午前中は嘔吐していたのだ。ふと、気になった。どうしたのだろう。幼い男の子は元気にしているのだろうか。

 心配になりながらも俺は口笛を鳴らし続けていく。

「静かにしろ!」

 鉄格子の隙間にヌッと現れた。俺は、立ち上がり看守に向かって尋ねた。

「今朝、ここに収監されていた男の子はどうしたんだ? ずっと吐いていたよな?」

「そんなこと聞いてどうする!」

「気になるんだ。もう、子供は釈放されたのか?」

「けっ、馬鹿野朗! ああいうガキは医学校に売ることになってんだよ。解剖用に捕まえてやったのさ。死体安置所に閉じ込めてあるぜ。そろそろくたばる頃さ」

 看守は腕をしならせて棍棒で鉄柵を乱打する。いかにも煩わしそうに歯を剥き出にして怒鳴り散らしている。

「うるせぇ! おとなしくしていろ! 今度やったら、てめぇの顔を叩き割ってやるからな! おまえの死体も売り飛ばしてやる」

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