愛しのディアンヌ
 それにしても、マリアさんはどこにいるのかしら……。困惑気味に会場の奥の壁際に佇んでいると、背後からマリアさんに呼びかけられたのである。

「聞いてちょうだい。朗報よ。ルイージの後援者を集めたわよ。ダイヤモンド王も乗り気になったわ。演奏会の話がまとまったのよ。ルイージは貧乏じゃなくなるわ」

 離れていた間に色々と働きかけてくれていたのだ。

「ありがとうございます!」

「待たせたわね。さぁ、帰りましょうか。お家賃を払い込まなくてはならないのよね。我が家に下宿してもいいのよ。部屋は空いているわよ」

「いいえ。そこまで甘える訳にはいきません。戻って家賃を支払います」

「そう言うと思ったわ。あなたって真面目ね。そういうところ、好きよ」

 私は、オルファに助言したお礼として二週間分の家賃と同額の謝礼を受け取っていた。これで、当分の間は何の心配もなく暮らせそうだ。 マリアさんの家で男物の服に着替えると、元の貧しいジョルジュになっている。

 綺麗なシャボン色の夢が砕けて消えたような残念な気分になる。

 そして帰宅すると……。

「遅かったね。おかえり。ジョルジュ。あんた、今夜は何だかいい匂いがするね」

 今夜のジャンヌはやけに上機嫌だった。

「部屋は無事に空いたよ。紳士が去る時に、たんまりとチップをくれたんだよ。ほーれ、あんたにもパンをやるよ。たーんと食べな。あんたは痩せっぽっちだからね」

「ありがとうございます。助かります。朝食にします」

 パンを受け取り自室に向かうが、室内は何も変わっていない。

 色々な体験をしたせいなのか横になっても、なかなか眠れなかった。めくるめくような今夜の出来事を思いかえすと、口許が自然に緩む。

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