愛しのディアンヌ
「おそらく酸性の薬品だと思います。僕、早く治療しなくちゃいけませんので帰ります」

 右肩の一部分が痛かった。皮膚が焼けてジクジクするような痛みに耐えていた。どんな劇薬を
かけられたのだろう。恐怖の余り神経が高ぶねり私の呼吸が荒くなっていた。どうしよう。震えが止まらない。私はショックと痛みのせいでパニックになっていた。

「ルイージさん!」

 異変に気付いたルイージが迎え入れながら顔色を変えている。

「とうしたの?」

「実は、河原で暴漢に遭遇しました。今夜、食事に誘っていただいたけれども無理なようです」

「誰にやられた!」

「見知らぬ男でした」

「すぐに処置しないと! 脱げよ」

 有無を言わさずシャツを脱がせようとする。でも、出来ない。私は、スッと咄嗟に身を引いてから、泣きそうな顔で訴えていた。

「やめて下さい! 強引に衣類を脱ぐと皮膚がめくれてしまいますから!」

「す、すまない……。それじゃ、どうすればいいのかな?」

「服の上から薬液を綺麗に洗い落して軟膏を塗ります。近所の川で汲んだ安い水では駄目です。アルコール濃度の高いお酒がいいのですが、ここにありますか?」

「ああ、蒸留酒ならあるよ」

 皮膚の爛れのせいで、少しでもシャツが擦れるとピリッと鋭い痛みが走る。私はルイージに背中を向けたまま震えながら懇願していた。

「ゆっくりと垂らしてください。身体の前は決して見ないで下さいね」

「ああ、分かってる」

 自分の衣服を敷物にして首筋から臀部にかけて酒で洗い清めてもらう事にしたのだが……。

 何だかスースーして身体が冷えてきた。ルイージは、明かりをかざして熱心に背中を観察している。

「やはり、右肩が一番酷いな……。最後に、もう一度、洗い流しておこう」

「あっ……」

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