あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
三人の日々

充実した時間

 慎吾と面談した後、里穂と慎里の生活は一変した。

 慎里は以前の無認可保育園から、ホテル学校と同じ建物に併設されているエスターク直営の保育園に通っている。

 里穂はエスタークグループの「本店」と呼ばれる旗艦ホテル内に設置されているホテル学校への入学を果たし、九時から十八時までの勤務となった。

 課題は多いが、情報漏洩という見地からマニュアルは教室外持ち出し禁止。

 生徒達はホテル学校内で知識やスキルを覚え込まなければならない。……ではあるのだが。

 テーブルセッティングを学んで自宅に帰ると、その日のテーブルを素晴らしく整えてしまう。

「おお! 我が家のダイニングが一流レストランっぽい!」

 慎里を抱っこしながら部屋に入ってきた、慎吾が歓声を上げた。

「並べるのはデリだったりするんだけど」

 褒められて嬉しいが、食事を作らない申し訳なさがある。

「料理をしないのは俺もだからな。慎里と互いが最優先。俺も里穂も人生のなかで仕事の比重は大きい。それ以外の省略できるところはしていけばいい」

 彼の最優先に自分と息子がいる。里穂の頬が嬉しさで染まった、のだが。

「……そう言われても」

 世の中男女平等と言われてもつい、引け目に感じてしまう。
< 112 / 229 >

この作品をシェア

pagetop