あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
ホテル買収
 重要なことが第三者から伝わるのは不思議だ。

『異業種クロフォード製剤インターナショナル、ホテル彩皇(さいおう)の九二パーセントの株取得!』

『クロフォード、同じく八パーセント株を取得したエスタークホテルチェーンと二十年契約でフランチャイズ合意!』

 ニュースがメディアを飾ってから初めて、岡安里穂(おかやす りほ)達スタッフは自分が働いているホテルが売られたのを知る。

 支配人以下、役員は総入れ替え。

 目はしがきく者達が、あっというまに姿を消していく。

 夜には、里穂含めブラックな勤務を命じられても、しがみつくしかない者達ばかりしかいない状況となっていた。



 同僚達は皆、暗い顔をしている。
 だが、里穂はそんな彼らを尻目に客室の清掃に勤しむ。

 ……働くしかない。
 彼女には、行くあても頼る人もいないのだから。

 それに、里穂には大事な宝物がいる。憎みたいほど大好きな男性との間に授かった、愛おしい息子が。

 社宅という名のボロボロの六畳一間のアパート。給料は手取りで十二万円。

 その殆どが我が子の二十四時間保育代に消えてしまうが、なんとか息子の学費を貯蓄している。

 施設出身で通信高校卒業の里穂には、これ以上の職場を探すのは難しい。


 
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