白い雪のように――。
 小さな頃から周りに馴染むのが苦手で、周りに染まれなくて……。そんな感じのまま、今日、私は二十八歳になった。

 今はクリスマスシーズン。夜になると街は沢山のイルミネーションに包まれている。そして、人々のざわめきで賑わっていた。

 どうしたらそんな簡単に染まることが出来るの? それが出来たらもっと人生楽しかったのかな? なんて思いながら今、目の前にある『イルミネーションの光が当たり、青色に染まった雪』をひとりで眺めていた。

 『人生楽しかったのかな?』なんて考えたのは、今日で生きるのを最後にしたいなとふと思い。どうせそんな勇気がなくて、思うだけなんだろうけど。

「お待たせ!」

 透くんが来た。

 彼とは高校を卒業してからずっと働いている職場で知り合い、付き合って三年目になる。そして、同じ歳で同期。彼が、大きな買い物袋を両手に持ち、全力で待ち合わせ場所まで走ってきた。

「改めて、誕生日おめでとう!」

 全力の笑顔で、全力の大きな声で彼は言った。

 彼は、私に対して常に全力だ。
 全力な彼に応えたいと、私も彼を全力で好きになって、彼色に染まりたいという願望はあった。けれど、私には無理みたいだ。このまま、ずるずると付き合っていても、彼の貴重な時間を無駄にするだけだし、今日、別れを告げようと思っていた。

「うちに来て!」

 適当にその辺の居酒屋にでも行って、そこで別れを告げようとしたけれど、家に誘われた。彼の家に行くとまったりしすぎて、結局別れを告げられずにそのまま寝て朝を迎えるのがオチだ。

「今日はこの辺で飲みたいな!」
「うん、分かった」

 返事をしてくれたものの、彼はどうやら落ち込んでいるっぽい。

「いや、やっぱり家に行こうかな?」

 私は発言を訂正した。
 彼の顔色が明るくなった。

「食べるものとか、お酒とか、もりもり買ってきたんだ! ケーキもあるよ!」
「ありがとう」

 優しいなぁ。彼は本当に優しすぎて、私にはもったいない男だ。

 私はなんとなく『青色に染まった雪』に視線をもう一度向けた。

「ねぇ、なんか私、いつも自分勝手すぎて、透くんの色に全く染まれなくて、ごめんね」

「みっちゃん、何言ってるの? 染まってるじゃん」

「えっ?」

「みっちゃん、ケーキ好きでしょ?」
「うん」
「僕と付き合う前はどうだった?」
「甘いもの、嫌いだった」
「みっちゃんが甘いもの好きになったきっかけは?」
「透くんが甘いもの大好きすぎるから」

 私はいつの間に、彼色に染まって――。

 もっと彼色に染まれたら、生きるのが楽しくなるのかな? ラクになるのかな? もっと染まってみようかな?

「ていうか、みっちゃん、別に染まんなくてもいいよ! どんなみっちゃんでも好きだから」

 私の心を見透かすように彼は言った。
 その言葉に、心がじんわりした。

 彼の肩に私の頭をふわっと乗せると、彼と一緒に微笑んだ。
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