"ぶっきらぼうで笑わない女神"の恋愛事情
「そうだよ。真琴さんは女神。最初は僕だけの女神だったのに、みんなの女神になっちゃった」

「おい、洸平、僕だけの女神ってなんだよ!」

「だってそうでしょ!兄さん、僕に感謝しなよね。僕はキューピットだよ」

「自分で言うのか?」

「うん」

「真琴さん、息子のこと、よろしく頼みます」

社長に頭を下げられ、真琴も慌てて下げ返す。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「そうだわ!」

小百合がパンッ!と手を叩き、先ほどの紙袋を真琴の前に置いた。

「引っ越したら、これ使ってちょうだい」

「なになに?凄く買い込んでたけど、母さん何買ってきたの?」

洸平も一緒になって覗き込む。

小百合は袋の中身を一つずつローテーブルに並べていった。

ペアのマグカップ、ペアの茶碗、ペアの箸、ペアのパジャマ、ペアのスリッパ……

「何これ!ペアばっかじゃん!」

「うふふふふっ、だってぇ、新婚さんだものぉ、これくらいいいじゃぁない」

呆気に取られている恭平と真琴、それに社長を前に、小百合はきゃっきゃきゃっきゃとはしゃいでいる。
目の前にいる元祖バリキャリは、完全に乙女だ。

「真琴さん、もう、今日からでも一緒に住んじゃいなさい。早くふたりきりにさせようって、せっかく洸平がこっちに帰ってきたんだから」

「え⁉︎」

「洸平、お前、出て行った本当の理由はそれか?」

「内緒。もう、母さん、なんで言っちゃうの!」

「あら、ごめんなさぁい」

「全然いいんだけどね」

皆が笑い、恭平との結婚をこんなにも喜んでくれている。

真琴の存在意義を揺るがないものにしてくれるこの家族の存在が、真琴にとってかけがえのないものとなっていた。
< 161 / 197 >

この作品をシェア

pagetop