婚活
ご縁があったら
「それでは、この条件で沢村様のエントリーをさせて頂きます。ネット上に載せますお写真をこれから撮らせて頂きますので、皆様こちらへどうぞ」

それこそアラフォーって感じの女性が、営業用の微笑みを振りまきながら私に言う。

「ちょっと。写真撮るって知ってたら、美容院行ってくるんだった」

「土台が土台だから、今更同じだって」

「何言ってんのよ。髪型でかなりイメージ変わるし、点数だって稼げるんだから。何もわかってないなぁ。朋美は」

「でも、素で勝負した方が会った時の落差なくて、かえっていいかもよ?」

相変わらず、先を見据えた分析力に長けてる由佳だな。

アラフォーの女性が即席カメラマンになり、その腕にはいささか疑問符も付けたくもなるがこの際致し方なく、腹を括って思いっきり目を見開いてレンズを見た。

「それでは皆様、客様IDと暗証番号は、お客様が責任を持って管理して下さいますよう、よろしくお願い致します」

「はい」

書類の入った袋を抱え、マリッジ相談所を出る。外の方が何だか清々しい秋空の土曜の午後。 

空が高いなぁ……。すっかり秋って感じだ。

「やった。これで登録完了かぁ。何だかワクワクするね」

朋美が前を歩きながら、満面笑みで振り返る。

「でも、これにすべてを賭けちゃダメよ。あくまで婚活の1つの手段として考えとかないと、どっぷり填ったらきっと失望するよ」

「相変わらず、由佳は冷めてるよなぁ」

朋美はあんな風に言ってるけど、由佳の人生一歩下がってみた思考。私は結構好きだったりもする。

そうなんだ。出会いは会っても、交際までには発展しない。会社だってケメンは結構いるけど、そんな男はだいたい売約済みだったり……。

ナチュラルな出会いを求めながら、朋美が言い出したマリッジ相談所に登録して、パソコン画面で検索しながら相手を探す。

興味本位で面白半分。入会金もキャンペーン中で今なら半額。そんなタイミングから1人じゃ何だか心細いからと、3人で休日の今日申し込みに来た。

果たして、婚活の潤滑油になるのか。錆びて朽ちるだけの、笑い話になるのか。それもこれも、すべてはまだまだ未知数。  

期待に胸を膨らませるこの感覚は、今の会社に入社する前と同じ気分。でも現実は、そう甘くはなかったんだよなぁ……。

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