婚活
和磨の顔を見上げると、ずっと長年見てきた和磨の目が初めて私の瞳に寂しげに映った。どうして彼女が居るのに、そんな事聞くのよ。どうして……。
悔しさがこみ上げて来る。何に対しての悔しさなのか?
和磨の彼女に対して?
和磨に対して?
それとも自分に対して?
目尻から涙が流れ落ちた。
「珠美……」
「和磨。どうして……どうして彼女が居るのに、そんな事聞くのよ?」
「……」
「彼女が居るのに、平気でこんな事出来る和磨なんて……。和磨なんて嫌いよ」
溢れ出る涙と共に確信してしまった。私は和磨が好きだったんだ。好きだとわかったのに 和磨には彼女が居て、そんな和磨が嫌いと言ってしまった。
和磨が起こしてくれると、掴んでいた私の両手首を静かに離した。
「帰る」
ベッドから立ち上がった私を、和磨はもう止めなかった。
部屋を出て静かにドアを閉め、身体の向きを変えると階段を急いで駆け下りたが、和磨に 振り回されたせいか、酔いがまわったせいなのか、最後の三段ぐらいのところでストッキングの滑りのよさも手伝って、滑って階段を踏み外した。
「うわっ」
ドスン!と、思った以上に凄い音がして、思いっきり尾てい骨を床に打ち付けた。
「痛ってぇ……」
床に座ったままお尻をさすっていると、その音に気付いた和磨が勢いよくドアを開け、階段を駆け下りてきた。
「珠美!大丈夫かよ?」
お尻をさすりながら、しゃがんだ和磨を見ると心配そうな顔をしていた。そんな和磨の顔を見てまた涙が零れてしまう。
「痛いわよ。でも大丈夫……。アハハッ……滑っちゃった」
ギュッと目を瞑り、痛さで泣いているよう誤魔化す自分に余計惨めさが増す。今、本当に痛いところのは、心なのかもしれない。
「珠美……」
いつまでもこのままここに居たら、本当の気持ちをさらけ出してしまいそう。自分の気持ちに気付いた時が恋の終わりだなんて、恋とは言えないのかもしれない。あっという間に終わっちゃったんだから。恋とは呼べない恋……。
「本当に大丈夫かよ?頭、打ってないか?」
「……」
和磨。もうそれ以上、何も言わないでよ。
「珠美。立てるか?」
和磨の手が私の腕に触れた途端、慌てて腕を引っ込めた。
「和磨……」
「ん?」
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