婚活
寝ながら返事を打っていると階段を誰かが上ってくる音がして、ノックする音と同時にドアが開き、和磨の姿が目に飛び込んできて、慌てて携帯を握りしめたまま飛び起きた。
「な、何よ。返事もしないうちから、ドア開けないでよ」
「いつもノックしろってうるさいからノックしてやったのに……。ノックしたらしたで また文句かよ?」
「和磨には、常識ってものがないわけ?」
あっ。由佳にメール返さなきゃ。今、こんな時に……とも思ったが、和磨から視線を逸らせるには格好のポーズだと思い、由佳にメールの続きを打ち出した。
「珠美」
「ん?」
メールを打ちながら返事をすると和磨が近づいて来る気配を感じ緊張が走る。顔を上げずに居ると、メールを打っていた携帯を和磨に取り上げられてしまった。
「そんなに俺と話したくないのかよ?」
「……」
「珠美のやってる事は、小学生並みだな。単なる我が儘なだけじゃねぇかよ」
小学生並み……我が儘……。
「和磨。ごめんね。振り回してばかりで……」
「珠美?」
「私さ……。幼稚だし器用じゃないから、大人の振るまいが出来ないの。なるべく早く平常心に戻れるように努力するから、それまでは……」
ベッドに座っている私の隣りに、和磨が座った。
「平常心でいられる奴なんて、居たらお目に掛かりてぇよ」
和磨が前を向いたまま、まるで吐き捨てるように言葉を発した。和磨も平常心ではいられなかったって事?
「普通に付き合うってどんなものなのか、裕樹達を見てみたかったんだ」
「和磨?」
「俺だって、そんな器用じゃねぇよ」
和磨は意を決したようにベッドから立ち上がると、ドアの方へと向かった。
「珠美も俺も、お互い何も負い目はないんだから、あんまり避けるなよな?」
「……」
和磨はそれだけ言うと、そのまま部屋から出て行ってしまった。
和磨も、もしかして……。
「普通に付き合うってどんなものなのか、裕樹達を見てみたかったんだ」
あれから悩んでいたの?
和磨。私は……。


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