婚活
裕樹の突っ込みにみんな吹き出しながらそのまま解散となったが、何ともバケツを片手に持った和磨が滑稽に見えて可笑しい。
「何か、終わった花火の入ったバケツなんて持ってると、情けねぇよなぁ」
「文句言わないの。よく似合ってるわよ、赤いバ・ケ・ツ」
「珠美。コノヤロー」
和磨をからかっていると面白い。格好悪い事を嫌う和磨だからこそ、からかい甲斐があるのだけれど……。表通りからいつもの路地を曲がり和磨の家の前の通りに差し掛かったのに、一向に和磨は曲がろうとしない。
「和磨。ここでいいよ。それじゃ、おやすみ」
手を振ってまた歩き出したが、和磨も隣りをまだ歩いている。
「別にいいよ。ここまで来たら、バケツ持ってるところを見られる事もないから」
プッ!よほどバケツを持ってる事を、和磨は気になっていたらしい。
「花火、楽しかったね」
「そうだな……。久しぶりだったし、滅多に花火なんてやる機会もなくなったもんなぁ」
和磨の言うとおり、何年ぶりかに花火に触れた気がする。どこかの夏祭りや花火大会で打ち上げられている花火は毎年見ているが、自分が実際に花火をするのは大人になってからは滅多になくなっていた。
「大人になるって、嫌なもんだな」
エッ……。
和磨を見ると、夜空を見上げていた。
「子供の頃って、何でも思った事が言えて悩みなんてなくてさ」
和磨……。
ちょうど私の家の前に着いた所だった。
「そうだね。子供の頃が一番良かったのかもしれない。花火も出来たしね」
そう言いながら、和磨が持っていたバケツに目をやった。
「それじゃ、おやすみ」
「うん、ありがとう。おやすみ」
「珠美」
門扉を開けて、玄関に向かおうとした私を和磨が呼び止めた。
「ん?」
振り返ると、和磨は背中を向けたままだった。
「俺……やっぱり珠美が忘れられねぇや」
和磨?
「ハハッ……。未練がましいよな。おやすみ」
夜空を見上げながらそう言うと、そのままの和磨は足早に歩き出し、曲がり角を曲がると姿が見えなくなってしまった。
「和磨……」
何でそんな事……言うの?やっとせっかく吹っ切れそうだったのに……。今更、何でよ?後ろ姿の和磨の残像を思い出しながら、和磨が曲がった曲がり角をずっと見つめていた。 
< 231 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop