婚活
「熊谷ねぇ……。以前は確かに彼女が居たのは知ってるんだけど、最近そう言えば話し聞かないなぁ。別れたのかも?」
朋美でも、わからないんだ。
「珠美は、何て返事したのよ?」
由佳が、結論を急き立てるように私に聞いてくる。
「まだ、返事はしてないんだ。携帯の番号とメールアドレス聞いただけで、そこに返事くれればいいからとは言われてるんだけど……」
意味なくグラスに付いた水滴を人差し指で触れて、数字の1を何度も書きながら朋美にも 把握出来ていない熊谷さんの昨日の言葉を、またしても思い出していた。
「でも……。普通、彼女が居ても隠す男は隠すけど彼女が居なかったら、はっきり居ないって言うのが人間の心理の現れのような気がするんだけどね」
由佳……。
「だとしたら、そうなると熊谷には彼女が居るって事?居るのに珠美にそんな事言ってるんだったら、完璧遊びジャン」
「……」
やっぱり昨日の熊谷さんの告白は、からかわれたのか、おちょくられたのか……。和磨の言ってた事も、そうだとすると辻褄があうから頷ける。
「火のないところに、煙は立たない。疑わしきは……珠美。熊谷さんの事は、暫く放っておきなよ」
放っておく?
「そうそう、私もそれがいいと思う」
由佳のアドバイスに、朋美も賛同している。
「もし……。熊谷さんが本気だとしたら、放置されたまま中途半端な状態でずっと珠美の返事も来なければ、業を煮やしてきっと必ずもう一度コンタクトを取ろうとするはず」
由佳の言葉に、やたらと朋美が頷いているのが視界に入ってきて、そんな朋美はまるであかべこのようだ。
「だから、絶対珠美からは連絡取っちゃダメだよ。あくまで熊谷さんの次のアクションを待って、それから考えても何ら遅くないんだからさ」
「うん……。そうだよね」
確かに由佳の言ってる事は、言い得て妙なのかもしれない。彼女が居ても、隠す男も居る。だけど彼女が居なかったら普通、居ないとキッパリ断言するはずなのに熊谷さんは、のらりくらりの解答をしていた。つまり、彼女が居ないとは言ってないから、そう思い込まされているとも取れる。和磨の言ってた事は、この事だったのかな。
「そのうち、嫌でもわかる……」
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