婚活
「何か元気ない声だから……。でもまだ先は長いし、これからだよ。だけど私、思うんだけど……言っていいかな?」
「何?」
由佳が、私に遠慮がちに聞くなんて珍しい
「珠美は熊谷さんの事もあるし、加納さんの事もあって言い方悪いけど、ストックがあるから相談所の出会いには消極的なんじゃないの?」
由佳……。
「故に、珠美は熊谷さんと加納さんの事はひとまず置いておいて婚活するって言ってたけど、私は逆に熊谷さんと加納さんとの事をはっきりさせてから婚活した方がいいような気がする。その方が、真剣に取り組める気がするし……」
熊谷さんと加納さんは、ストック……。真剣に婚活に取り組むには、熊谷さんと加納さんの事をはっきりさせてからの方がいいって……。でも由佳の言ってる事は、最もなのかもしれない。
「そうだね。何となく、適当にいい人いればって感じで私も画面で選んでたかもしれない」
「私もね、珠美の事は言えないのよ。今の彼氏と明日どうこうなるわけではないし、敢えて別れようとも思っていないから狡いんだ」
由佳……。
「でも身辺整理は、本当に必要なのかもしれない。万が一、興信所とかつけられたら一発だもん、私」
興信所かぁ……。そうだよね。やっぱり身辺すっきりしてから取り組んだほうが、いいに決まってる。
「由佳。私、この連休で熊谷さんと加納さんの事、すっきりさせるわ」
「珠美?もちろん熊谷さんと加納さんのどっちかと付き合う事になっても、それはそれで万々歳なんだから、ゆっくりよく考えた方がいいからね」
「うん。わかってる。もう一度会って話してみるかもしれないし、電話で話すかもしれない」
由佳とはそれから相談所で会った錦織さんとの会話で盛り上がり、電話を切ったあとは 先ほどの落ち込みが嘘のように気合い十分になっていた。
思い立ったら居ても立ってもいられなくなってきて、バッグの中から加納さんの連絡先を書いた紙を出した。何て言おう……。
「また、気が向いたら連絡して。いつでも相談に乗るから」
そう言ってくれた事は非常に有り難いが、やはり心の何処かで甘えが出てしまいそう。加納さんは本当にいい人だけど、何だろう……。違うんだよな。私がこの人とならと探している人は、加納さんじゃない。もやもやした気分のまま、電話を掛けていた。出るかな?
「もしもし」
出た!
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