君がたとえあいつの秘書でも離さない

 「石井コーポレーションの石井弘取締役でいらっしゃいますか?」
 高いソプラノが響く。
 
 「お迎えにあがりました。ご案内致しますどうぞ」
 そう言うと、エレベーターへ連れて行かれる。

 エレベーターに入ると、最上階を押す。
 そして、こちらに背を向けながら、ちらちらとこちらを見ている。
 
 「さすが、堂本コーポレーションの副社長秘書ですね。お美しい」
 ビクッとした彼女がボスを見た。
 
 余裕の笑みを浮かべる彼を彼女は返事もせずじいっと見ている。
 何?なんか……。

 すると、最上階へ到着直前に彼女が言った。
 
 「石井コーポレーションの秘書の方もお綺麗ですね。副社長もそう言っておられたのですが、今日よく分かりました」

 ボスは、開いたエレベータのドアを通り抜ける際、何かつぶやいた。
 彼女は、開くボタンを押したまま、彼が通るのを見ている。

 私は、異様な雰囲気を感じながら、その後ろを付いていった。

< 130 / 274 >

この作品をシェア

pagetop