君がたとえあいつの秘書でも離さない
 「穂積さんのことは、どう説明する気だ?人にあらぬことを吹きかけておきながら、自分は何をしているんだ、弘君」

 「さっきいいましたよ。彼女とは昔知り合いだっただけで、今は何の関係もありません。何をお調べになったかは知りませんが、彼女のためにもこれ以上はなにもしないほうがいいですよ。あと入札はほとんど諦めてますから……」

 清花は下を向いている。
 古川さんは彼女をじっと見ている。

 「では、失礼しますよ。お忙しい時間に急にすみませんでした。古川さん帰ろう」

 そう言うと、きびすを返した。

 「遙。心配ない。俺を信じろ」

 帰り際、彼女に囁く声が聞こえた。
 腹が立つ。

 エレベーターに乗ると、彼女に向き直った。
 嬉しそうにしやがって。

 衝動的に、彼女の手をつかんで引き寄せた。
 彼女は身体を硬くして、一瞬俺の腕の中に入ったがすぐに俺を突き飛ばした。

 「やめてください。どうして?どうしてこんなことを?」

 「どうして?君が欲しかったのに。僕のものにならないなら、邪魔するまでだよ」

 エレベーターが下に着いた。
 俺は彼女を置いて先に出た。
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