君がたとえあいつの秘書でも離さない
 
 そんなとき、石井取締役が私に話しかけてきた。

 「ウチの最大のライバル堂本コーポレーションも今日は社長がいなくて、副社長が来ているようだ。先に挨拶しておこう」
 
 そう言うと、私を連れて移動し始めた。

 名札が見えた。堂本コーポレーション副社長と書いてある。
 
 顔を上げて相手を見る。驚きすぎて、声が出ない。
 
 そこには、匠さんがいた。

 「匠さん。お久しぶりです」
 
 石井取締役が名前で呼んだ。びっくりした。
 
 彼は私を見ても驚かない。
 
 「弘君。久しぶりだね。今日はお二人のピンチヒッターかな」
 
 「そういう、匠さんもお父様のピンチヒッターでしょ」
 
 「まあ、そうだね。最近、腰が痛いらしくて、座れない仕事は僕に回ってくるんだよ」
 
 苦笑いの匠さん。
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