僕のキャパシティイズオーバー
そんな僕が今何をしているのかと言うと。


「睦」


楽屋を片づけていたところを呼ばれて振り返り、


「どうしたの?奏多(かなた)


と、目の前の推しにまだ慣れない心臓をどうにか落ち着かせてニコッとしたところで、


「抱きしめさせて」


……推しからとんでもないことを言われたところ、です。


「…………ん?」


理解の追い付かない僕を無視してこちらに向かって歩いてくる黒髪イケメン。

身にまとうキラキラ王子さまみたいな衣装は、こないだ動画サイトで僕が個人的にn万回再生した新曲のもの。

彼を覆うその凛としたオーラはやっぱりトップアイドルのそれで、そのまっすぐに澄んだ瞳に吸い込まれそうになる。


√soleilのメンバー・奏多(かなた)


黒髪の隙間から見える奏多の芸術的なまでの美しい三白眼は、一見怒ってるようにも見えるけど、これが奏多の普通。

真顔で僕の前に立った奏多に、僕は冷汗をぴゅーぴゅー出しながら聞いてみる。


「……えっと……もっかい言ってくれる?」


……たぶん聞き間違いだ。

真面目で硬派な奏多が突然そんなセクハラまがいなことを言うはずがない。

しっかりしろ、耳…!仕事中だぞっ!

心の中で自分の耳を叱咤激励しながら、奏多の低い声に全集中する。
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