【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第24話】

その一方であった。

職場と家庭の往復だけの生活を続けている義弟《おとうと》は、苦痛な表情を浮かべるようになった。

時は正午過ぎのことであった。

工場の敷地内にお昼休みを告げるサイレンが鳴った。

従業員のみなさまが作業場から休憩室に移動した。

休憩室に着いた従業員さんたちは、青いキャリーに入っているお弁当を次々と取ったあと空いている席に座った。

義弟《おとうと》も、お弁当を取った後空いている席に座ってひとりで食べた。

そんな時であった。

義弟《おとうと》のことをいつも親切に接している入江さんがやって来た。

入江さんは『一緒にお弁当を食べたいけれどいいかな?』とやさしい声で言うたあと、義弟《おとうと》がいる席の向かい側の席に座った。

入江さんは、義父母の昔からの顔なじみで工場の給与担当の部署で働いている。

中学を卒業したあと、高校に行かなかった…

運転免許などの資格も取らなかった…

結婚したい時期に好きなコがいなかった…

安月給でも文句ひとつ言わずに休むことなく会社のために働いて来た義弟《おとうと》をなんとかしてあげたい…と入江さんは考えていた。

入江さんは、義弟《おとうと》に対して今後どのような人生を送りたいのかとたずねた。

義弟《おとうと》は、すねた口調で『そんなことを聞いてどうしたいのですか!?』と入江さんに言い返した。

入江さんは、優しい声で義弟《おとうと》に言うた。

「ひろかずさん、ひろかずさんが24年間工場と家庭の往復だけの暮らしで、高校に行かずに、運転免許などの資格も取らなかった…結婚したくてもできなかった…だから、何とかしてあげたいと思っているのだよ。」
「しほのわがままのせいで、オレは何もかもをがまんさせられた!!『お兄ちゃんだからがまんしなさい…』…と親から小うるさく言われた…だからぼくはガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマンガマン…したのですよ!!」

義弟《おとうと》は、すねた声でこう言うたあと入江さんに言うた。

「結婚したいとぼくが言うた時、入江さんが『10年早い…』と言い続けた!!…だから婚期を逃した!!どうしてくれるのだよ!?」
「あの時は、仕事をたくさん覚えてほしかったから…」
「だから止めたのか!?なんとか言えよ!!」
「ひろかずさんの結婚のことについては、ご両親も心配なされているのだよ…」
「だったらお見合いの世話をしろよ!!」
「だから、何とかしてあげると言っているのだから…」

入江さんは、ひと間隔空けてから義弟《おとうと》に言うた。

「ひろかずさん、今年に入ってからうちの会社も海外からの受注が増えたのだよ…売り上げも少しだけど伸びてきたのだよ…それでね…従業員さん全員にごほうびを…」

義弟《おとうと》は、冷めた声で入江さんに言うた。

「あんたのクソたわけたもうそうがまた始まったよ…」
「ひろかずさん、ひろかずさんはごほうびはいらないのか?」
「ごほうびってなんだよ!!ぼくがここへ来た時、あんたは手当てを出すと言うだけと、1円も出さなかった…今ごろになってなんだよ!!そんなものいらん!!」
「ひろかずさんが工場に入りたての頃は、世界経済が不安定になっていたんだよ…今は状態が少し安定したから…」
「いいわけばかりを言うな!!ケイヒセツヤク…と言っておいて、工場のカネを使って政治家や経済団体のエライさんや県議会の議員さんたちやヤーサンの親分と昼の昼間からゴルフ三昧《ざんまい》にコンパニオンのねーちゃんを侍《はべ》らせたり…ドーラク三昧《ざんまい》しているじゃないか…従業員さんたちのお給料を食い物にしておいて何がごほうびだ!!オドレは頭がクルクルパーだから病院へ行けよバカ!!」
「私のことをそんなに悪く言うのかね!?ごほうびと言うのは、会社から金一封が出るんだよ。」

入江さんが言うた言葉にブチ切れた義弟《おとうと》は、席を立った状態で入江さんをにらんだ目つきで見つめた。

「ひろかずさん!!」
「会社の言うことはウソばっかりだ!!従業員さんたちのことを考えたいと言うのであれば、役員職から降りろよバカ役員!!」

入江さんを怒鳴りつけた義弟《おとうと》は、お弁当の中身をゴミ箱に捨てたあと休憩室から出て行った。

その一方あった。

アタシとリコンしたあいつは、別の病院に勤務している27歳の看護婦さんを好きになった。

あいつは、お休みの日ごとに看護婦《おんな》と密会していた。

サンポートの公園・屋島・レオマワールドや津田の松原など…

…でデートを楽しんでいた。

あいつと看護婦《おんな》が詰田川《つめだがわ》の付近にあるラブホに出入りしていたところを武方《たけかた》さんが見たといよった。

他にも、あいつは武方《たけかた》さんが見ている前で堂々とキスをしたり、イチャイチャしていた。

アタシは、あいつとはリコンしたからそんなことはどーでもいいと思っている。

そんな話を聞いても、アタシはいたくもかゆくもないしくやしいとは思わないわ!!

2016年7月20日のことであった。

あいつは、看護婦《おんな》から妊娠をしていると告げられた。

あいつは、看護婦《おんな》に対して『ぼくの赤ちゃんを産んでほしい…』と伝えた。

看護婦《おんな》は『うれしい…』と言うたあと涙をポロポロこぼしながら泣いた。

あいつは、看護婦《おんな》をギュッと抱きしめたあとキスをした。

その様子を武方さんが聞いたので、びっくりしてうろたえた。

その日の夜のことであった。

アタシがバイトしている香川県庁前《けんちょうまえ》のファミマに武方《たけかた》さんがやって来た。

武方《たけかた》さんは、アタシに対してあいつを止めてくれとコンガンした。

アタシは、陳列ケースに新しく来たお弁当をならべながら、武方《たけかた》さんに冷めた声で言うた。

「武方さん!!アタシはあいつの家とはリエンしたのよ!!それなのにどうして他の女と一緒にラブホに入って行くところを見たとアタシに言いに来たのよ!?そんな話を聞いてもアタシはくやしいなんて思ってないわよ!!帰ってよ!!アタシは今バイト中よ!!」
「としこさん、こっちは困っているのだよぉ…せっかくとしこさんとひろむさんが結婚できたと言うのに…結婚して半年もたたないうちに離婚したら…困るのだよ〜」
「困る困るって…一体何に困ると言うのよ!?」
「困っているのは、ひろむさんの両親だよ。」
「イヤ!!ダンコ拒否するわよ!!義父母はアタシが家の預金通帳をドロボーしたとわめいた末にアタシを家から追い出した…だから大事なたからものがなくなったのよ!!」
「としこさん。」
「アタシは今バイト中よ!!」
「分かってますよぉ…だけど、このままでは帰れないのだよぉ。」
「はぐいたらしいわね!!帰りなさいと言うたら帰りなさいよ!!」
「帰りますよ…だけど…」
「アタシにどうしろと言いたいのよ!?」
「ひろむさんの両親が困っているのですよ…温かい手料理をつくってほしい…みそしるをたいてほしい…ひろかずさんに目玉焼きを焼いてほしい…」
「帰ってよ!!今すぐに帰ってよ!!」
「分かってますよぉ…だけどひろむさんのご両親は家には女の子がいないのでものすごく困っているのだよぉ…」

ブチ切れたアタシは、古い方のお弁当を武方《たけかた》さんに差し出しながら言うた。

「あのね!!アタシはあいつの家とはリエンしたから義父母のお望みに答えることはできません!!義父母がいよる意味が全く分からないわよ!!…誰のために手料理を作るのよ!?誰のためにみそしるを炊くのよ!!義弟《おとうと》に目玉焼きを焼けと命令したわね!!」
「としこさん。」
「あのね!!そんなにごはんごはんと言うのならば古くなったお弁当をもって行ってくれるかしら!!これ以上居座るのであれば、アタシの元カレに頼んで今治のヤーサンの親分呼ぶわよ!!あいつの実家をヤーサンの事務所のダンプカーで家と家族をぺっちゃんこにつぶすから覚悟しときなさい!!」

思い切りブチ切れたアタシは、奥の部屋に逃げた。

アタシは…

何であななクソッタレの男と再婚したのか…

分からない…

2016年7月の最終木曜日のことであった。

アタシは、あいつの家から絶縁状をたたきつけられた。

これでアタシはあいつの家どころか、円座町《えんざ》にも行くことができなくなった。
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