雪降る夜はあなたに会いたい 【上】


 帰りの新幹線は、どことなく寂しい。

 車窓が、美しく雪を纏ったものから、白が消え次第に建物が増えて街へと戻って行く。その変化が、現実へと帰るのだと私に訴えて来る。いつまでも隠れていられるわけでもない。込み上げる寂しさは確かに私の中にある。

 夢を見たせいでより現実が鮮明になったのだとしても、それでも夢を見られた時間をなかったことにはしたくない。

 たとえ、この後の現実が辛くても、夢は夢で大事な思い出だ。

「創介さん……?」

二人がけの席に隣り合わせで座っていた。肩に重みを感じて隣を見てみると、創介さんが私の肩に頭を預けて目を閉じていた。

寝てる――?

私の手を握りながら、微かに寝息を立てていた。そんな創介さんを見ると、思わず口元がほころんでしまう。

私も、創介さんの寝顔が見れますね――。

寝ているのをいいことに、握りしめられていた手のひらに力を込めた。

 創介さんだって疲れているに決まっている。平日は遅くまで働いて、土曜日の朝は早くから私の家の近くまで迎えに来てくれた。創介さんはこの週末ほとんど休めていない。

ゆっくり、寝てくださいね――。

寝顔をじっと見つめる。

真っ直ぐに上がったしっかりとした眉。険しい眉間と筋が通った鼻と、引き締められた唇。

一見、とても冷たくて怖い人。でも、それだけじゃない。私にこんな夢を見させてくれる優しいところもある。

創介さん、本当に優しすぎます――。

その優しさは毒にもなる。

でも、彼を好きな私は、それが優しさでもやっぱり嬉しい。

短い髪に頬を寄せる。

こんな時間をくれてありがとう――。

視界に入る車窓には、見慣れた風景が広がり始めていた。

< 54 / 141 >

この作品をシェア

pagetop