雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
榊さんはびっくりするほどに覚えが早くて、私が指導することはニ日も経てばなくなってしまっていた。
「もうレジも配膳も完璧です! 凄いです」
上がりの時間がたまたま同じになり、駅までの道を並んで歩いていた。
これまで指導したバイトさんの中で、榊さんはダントツの物覚えの早さかもしれない。余裕のある表情で淡々とこなせてしまうのだから尚更すごい。この店は乗降客の多い池袋駅前にあり、お客さんの出入りも激しい。テキパキできる人がいてくれると本当に助かるのだ。
「いえ、戸川さんの指導が適切だからですよ。分かりやすい上に簡潔で。ありがとうございます」
「そんな、やめてください。榊さんと私、同級生だし!」
慌ててそう言うと、榊さんがふっと笑って私を見た。
「それを言うなら戸川さんだって。同級生なのに”さん”付けだし、敬語だし」
「そっか、そうですね」
二人で笑い合う。
「戸川さんとは同級生だけど、バイト先では先輩なわけで。僕が敬語なのはいいとして、戸川さんは敬語やめてください。それと”さん”付けも」
「じゃあ、”榊君”って呼びます……じゃなくて、呼ぶね」
「はい」
「榊……君も、敬語はやめてね。バイト仲間としてよろしくお願いします」
男の人と話をすることには慣れていないのに、何故か榊君は変に緊張せずに済んだ。
仕事上の指導として接することから始まった、というのが大きいのかもしれない。
「うん。よろしく」
榊君は優げに笑った。