これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




関連があるとすれば、彼女のことのみ。

だから俺は黙って言葉を待った。



「1200円のわんぱんだ、もらった?」


「……もらった」


「“ちょっとでも優しさを渡せたから嬉しい”って、言ってた」



その言葉を聞いただけで、目の前にセンパイの姿が見えたような気がした。

あまり大きくは笑わず、小さなつぼみが、ほんの少しだけ開くような大人しい笑顔。



「なんかこれ、伝えなきゃかなって思って」


「……センパイは、泣いてた?」


「泣いてたよ。でも…そのあと、そう言って笑ってた」



ちょっとどころじゃないよ。
ちょっとの優しさ、なんてものじゃない。

俺は、すごく、たくさん、センパイにいろんな気持ちや世界を貰ったんだ。



「きっと彼女は三好さんじゃなくても、これから素敵な人と出会えるんだろうなって思う」



俺もそれは思う。

きっと俺よりもずっとずっと大切にしてくれる男が現れて、最初から最後まで優しく丁寧に扱ってくれる男が現れて。


そこに懸ける、ってわけじゃないけれど。



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