神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「…何があったんだ?」

顔色を変えたキュレムが、そう尋ねた。

…そうだな。

くどくど説明している暇はないが…何があったのか、その概要くらいは話さないとな。

「…実は…」

俺は、先程現れたベリクリーデのドッペルゲンガーと。

そのドッペルゲンガーが、ベリクリーデを断絶空間に送り込んだことを、二人に説明した。

まぁ、話としては凄くシンプルだ。

本物のベリクリーデが、偽物のベリクリーデによって、遠いところに閉じ込められたから。

それを探しに行きたい、と。それだけの話だ。

だが、これはそんなに簡単なことではない。

だからこそ、俺はキュレムとルイーシュに協力を求めたのだ。

「…それはまた、厄介なことになりましたね」

…事の次第を聞いたルイーシュは。

珍しく…真面目な顔つきだった。

そうだな。

ルイーシュが、思わず真剣な顔になるほど…事態は最悪ってことだ。

「知ってると思いますけど…。通常、断絶空間に入るなんて不可能ですよ」

「…あぁ、知ってる」

「あんな場所に、人探しに行こうなんて…無謀にも程がありますね。…あなた、死にますよ」

「…知ってるよ」

こう見えて、俺もそこそこ長生きなもんでね。

断絶空間が…いかに、危険な場所であるかは…よく知っている。

断絶空間。時空の狭間にある、外界から閉ざされた…その名の通り、断絶された空間。

そこは、例えるなら…時空の狭間にあるイレギュラーの掃き溜め。無法地帯みたいなものだ。

本来の異空間世界と違って、断絶空間に秩序はない。通常の世界とは、全く在り方が異なっている。

壊れた世界。秩序のない、千切れた空間の切れっ端。

そこでは、あらゆるイレギュラーな事態が起こり得る。

記憶をなくしたり、自分が別の人間に成り代わっていたり…何でも有りな世界だ。

ベリクリーデは今頃、魔法も使うことが出来ないでいるかもしれない。

そして、何より厄介なのは。

断絶空間に入るのは簡単でも、出ることは簡単ではないという点だ。

通常の世界とは、理が違うからだ。

一度足を踏み入れたら、内側から出ることも、外側から開けることも出来ないのだ。

そんな恐ろしい無法地帯なのだ。断絶空間は。

ゴミ捨て場みたいなもんだな。

そこにゴミを捨てるのは簡単でも、そのゴミを探し出し、引っ張り出すのは簡単じゃない。

だからこそ、ドッペルゲンガーベリクリーデは、あれだけ自信満々だったのだ。

断絶空間にベリクリーデを送り込んだのなら、もう二度と、ベリクリーデを断絶空間から出すことは出来ない。

永遠に断絶された空間の中、自分が何処にいるのかも知らないまま、彷徨い続けるしかない。

大昔では、刑罰の一種として、罪人が断絶空間に送り込まれることもあったらしい。

特に、殺してもなかなか死なない魔導師には、うってつけの罰だ。

ある意味で、終身刑だよな。

一度送り込まれたら、もう二度と戻ってこられないのだから。

俺も長いこと生きてるが、断絶空間に送り込まれた人間が、自力で戻ってきたなんて…そんな話、聞いたこともない。

それだけ危険な場所なのだ。ベリクリーデが送られた場所は。
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