神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
イーニシュフェルト魔導学院、学院長室では。

「やれやれ…。全く、イーニシュフェルトの里の魔法道具って奴には困ったもんだな…」

「全くですね。おちおち、リリスとイチャイチャタイムも楽しめませんよ」

「羽久、羽久。ほら、チョコカステラあるよ。はいっ、どうぞ」

「まさか、最後の一体が俺じゃなくて、聖魔騎士団の方に行くとは…。どういう気まぐれなんだか…」

「それに…ベリクリーデさんの寝室に現れた、子供の人影っていうのも気になるよね」

「そうだな…」

「はいっ、ナジュ君、天音君もほら。美味しいよ〜これ!チョコたっぷりの生地に、二種のチョコチップがたっぷり入ってて、その上にチョコソースたっぷりで、更にチョコ味のアイシングがたっぷりと、」

…イラッ。

「どんだけチョコたっぷりだよ。うるさい奴だなお前は」

頭の中までチョコたっぷり、の間違いだろ。

人様が真面目に話をしてるときに、チョコの匂いをぷんぷんさせながら、割って入るんじゃない。

しかし、チョコ星人のシルナは、全く怯まない。

「はいっ、はいっ、チョコカステラどーぞ!」

強引にチョコカステラを勧めてくる。

お前って奴は…。少しは危機感を持とうぜ、危機感を。

…すると。

「失礼しますよ、学院長」

あ、イレースだ。

イレースがやって来たぞ。

「イレースちゃん!良いところに!チョコカステラあるよ、チョコカステラ。イレースちゃん、はいっ、チョコカステラを食べ、」

「はいはい美味しそうですね、良かったですねーはいはい。それでこの書類、明日までにお願いしますね」

…棒読みだった。

イレース、お前…シルナの扱い、上手くなったよな…。

逞しい女だよ、お前は。

何処に行っても、順応して立派に生きてそう。

「確かにイレースさんなら、例え地獄に送られても、閻魔大王相手に『何ですか、その偉そうな態度は?ちょっとそこに座りなさい』とか言ってそうですね」

俺の心を読んで、ナジュがそう言った。

うん、言いそう。

言ってる姿が見えたよ。今。

イレースの剣幕にビビった閻魔大王が、たじたじになって正座する姿まで見えた。

いやはや、恐ろしい…。

「…何か仰いました?」

ギロッ、とナジュを睨むイレース。

怖っ。

お前な、常々思ってるが、いくら不死身だからって、命知らずにも程が…。

しかし今のナジュには、便利な人身御供がいた。

「…って、天音さんがさっき言ってたんですよ」

「えぇっ!?」

天音、寝耳に水。

…気の毒な…。

「もぐもぐ。美味しいねこれ」

「後で、ツキナにも持ってってあげよーっと」

「うわっ」

声がして振り向くと、いつの間にかそこには、令月とすぐりの二人がいた。

お前ら…いつの間に…。

放課後の学院長室は、本日もわっちゃわちゃである。
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