神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
Ⅷ〜後編〜
「ふふっ…」

…。

「…うふふっ…」

…。

「はぁ〜…。…ふふっ」

…。

「うふふふふ…」

…。

…あのさ。

凄い気持ち悪いんだけど、こいつ窓から捨てて良いかな?

チョコを貪り食っているシルナより醜いぞ。

「…羽久が、私に失礼なことを考えてる気がする…」

「そんなことより、あのキモい人魚を何とかしてくれ」

「人魚姫がキモい」なんて状況、なかなかあるものじゃないぞ。

女の子の憧れ、童話のプリンセスが、まさかこんなに気持ち悪いとは。

夢が潰れるわ。

やはり童話のお姫様は、絵本の中でだけ想像を膨らませていた方が良いな。

さっきから、この人魚姫。

便箋を前に、鉛筆を握って、うふうふ言い続けている。

気持ち悪いことこの上ない。

何をしているのかと言ったら、それは勿論。

「…書けましたわ!」

人魚姫は書き上がった手紙を、愛おしそうに抱き締めた。

そう、あれは手紙である。

人魚姫は手紙をしたためていたのだ。

…3時間かけてな。

アトラスに送る、人魚姫渾身の恋文なのである。

今どき恋文なんて、少女漫画の中だけの出来事だと思ってたわ。

「はぁ、愛しいアトラス様…。あなたがこれを読むところを想像しただけで…」

恍惚と語っては、手紙を抱き締めて頬を染めている。

…幸せそうで何よりだな。

幸せそうなところ悪いけど、それ、アトラスに読んでもらえるのか?

他の書類やら、報告書の束と一括にされて、まともに読んでもらえないのでは?

ただでさえアトラス、書類仕事苦手だからな。

緊急性のない手紙など、後回しにされるのがオチ。

しかし人魚姫は、頭の中がシルナ並みにお花畑なので。

勿論、そんなことは気づかない。

それどころか。

「ちょっと、お二人共読んでみてくださる?」

書き上げたラブレターを、俺とシルナに見せてきた。

…うげ…。

人様宛てのラブレターを読まされるとか…。どんな罰ゲームだよ…。
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