神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
X〜後編〜
――――――…下校時刻が過ぎ、生徒達が学生寮に帰った、その15分後。




「はー、美味しかった〜。やっぱり、チョコロールケーキは最高だね!」

「…」

今日もシルナは、チョコまみれのおやつに舌鼓を打ち。

たらふくチョコロールケーキを食べた後、満足そうな顔で、余ったロールケーキにラップをかけていた。

「この残りは〜、明日の朝ご飯にしよっと!」

「…」

…そりゃ良かったな。

溢れ返らんばかりにチョコ味のクリームがたっぷり入ったロールケーキを、よくもまぁ朝から食べられるものだ。

俺だったら、絶対気持ち悪くなる。

しかし、糖分に脳みそを侵食されているシルナにとっては、朝ロールケーキなんて普通なんだろうな。

…ロールケーキも良いが、少しは真面目な話をしようぜ。

結局、珠蓮に連絡しても大した情報は得られず。

むしろ、一体誰から、何処からイーニシュフェルトの里の遺産に関する情報が漏れたのかと、心配事は尽きない。

難しい顔を突き合わせて話し合おう、って訳じゃないが…。

さすがに、もう少し危機感を持った方が良いんじゃないか、という気がしてくる。

「今こうしてる間にも、新たな魔法道具が現れてるかもしれないのに…」

「…それはそうですけど、次何が現れるのかびくびくしているより、何が現れても落ち着いていられるよう、どっしり構えていた方が良いのでは?」

俺の心を読んだナジュが、そう言った。

そりゃまぁ、そうなんだけどさ…。

…更に。

「まだ見ぬ魔法道具など、どうでも良いことです。そんなことより、目の前の仕事をさっさと終わらせてください」

学院長室にやって来たイレースは、シルナのデスクに書類の束を置きながら言った。

現実主義者、イレース。

仰る通りである。言い返す言葉もない。

…それに。

「大丈夫だよ。怯えているよりは、落ち着いて過ごそう」

天音は、俺を安心させるように言った。

「天音…」

「何があっても、ここにいる皆が力を合わせれば、大昔の魔法道具にだって負けないよ、きっと。大丈夫」

…お前って奴は。

本当に、イーニシュフェルト魔導学院の清涼剤だな。

唯一の良心と言っても過言ではない。

「え?僕だって良心の塊では?」

「勝手に人の心を読む奴の、何処に良心があるって?」

お前はまず、その悪癖をやめることから始めるんだな。

…などと、ある意味でいつも通りの会話をしていた…。

…そのときだった。

学院長室の窓の鍵が、ガチャッ、と開けられた。


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