神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
暗がりの中で、俺はぼんやりとした頭で部屋の中を見渡した。

…誰だ?

誰かが、そこにいる…?

すると。

「…許さぬ」

低く、そして憎しみに染まった声がした。

聞いたことのない声だった。

「…誰だ…?」

ぼんやりした頭で、かろうじて声を絞り出す。

誰かが部屋の中にいる。

普通なら、飛び起きて、取っちめてやらなければならないところだったのに。

何故か、俺は妙に冷静だった。

冷静と言うか…ボーッとしていて、頭が回らなかった。

いくら寝起きと言えども。

自分でも驚くほど、危機感がなかった。

…すると。

「許さぬ…。決して、貴様らを許さぬ…」

俺の部屋に侵入してきた謎の人物は、何者かという問いには答えず。

ただ憎々しげな声で、そう繰り返した。

…許さぬ…って。

誰を、何を許さないって言ってるんだ?

そもそもお前、誰?

「貴様らには…必ず神罰が下る…」

「…」

「忌まわしき我が同胞…。必ずや、我が手で葬らねば…」

…神罰?同胞?

何のことだ…?誰のことを言ってるんだ…。

それに、葬るって…殺すってことか?俺達を…?

つまり、この謎の人物が憎んでるのは俺達なのか…。

何をしたって言うんだ、俺達が…。

「いずれ、必ず我らの無念を晴らす…。そして世界は正しき道に戻るのだ…」

「…世界…」

世界が…何だって?

正しき道って…それはもしかして…俺の中にいる、邪神の…。

…と、思ったそのとき。

「…そこまでだよ」

ゆらり、と。

新たな人影が、部屋の中に現れた。

それは、大人のものではない…子供の人影だった。

「今はここまでで良い…。いずれ、また…」

「…」

「じゃあね。…また会いに来てあげるよ」

暗闇の中で、子供の人影が歪んだ笑みを溢した。

その瞬間、二人の人影が消えた。

…後に残ったのは、鼻にツンと来る、強い腐敗臭だけだった。
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