神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
XVI
…突如として目の前に現れた、その人物に。

何より驚いたのは、俺ではなく…。

「…何故…あなたが、ここに…」

シルナは呆然として、その人物を見つめていた。

正直なところ、俺はそれが誰なのか知らなかった。

ただ、シルナのこの反応を見て。

見た目以上に、ただならぬ人物が現れたのだということはよく分かった。

そもそも、このイーニシュフェルト魔導学院に無断で入り込むことが出来る時点で、充分要注意人物だ。

…誰だ、このおっさん。

おっさんと言うか…おじいさんだった。

何処か見覚えのある白いローブに見を包み、重そうな木の杖をついて、憎々しげな目でシルナを睨んでいた。

その目を見れば、俺達の敵だということは確かだ。

それに、何処からか…食べ物が腐ったような、嫌な匂いがした。

この匂いは一体…。

いや、それよりも。

「…やるか…?」

俺は杖を握って、臨戦態勢を取った。

話し合いを…受け入れてくれる様子ではないな。

こいつの実力が、どれほどのものなのか…未知数なのが恐ろしいが。

今の俺達は、およそ戦いに向いているコンディションとは言えなかった。

ナジュは死にかけて…と言うか、死んで生き返ってを繰り返している状態で、とてもじゃないが動けない。

そのナジュの治療に当たる天音も、まだ先程の怪我が癒えていない。

令月も、さっきアリスに叩きつけられていた。受け身を取ったとはいえ、ダメージはゼロではないはず。

おまけに、令月愛用の小太刀は、アリスの腕に突き刺したまま、元の世界に戻ってきてしまった。

力魔法以外使えない令月にとって、武器がないのはかなりの痛手だ。

そしてシルナは…消費しきった魔力が戻っていない上に…いちごソースまみれだ。

元の世界に戻ってきたんだから、怪我とか魔力とか武器とかいちごソースとか、リセットしてくれよ。

不親切にも程がある。

正直、俺も…「ティーセットの世界」でかなり無茶をした為、万全の状態とは言い難い。

まともに動けるのは、恐らく…イレースとすぐりの二人くらいだ。

二人の実力を疑ってはいないが、それでも…相手の力が未知数である以上、まともに戦えるのが二人だけというのは、心許なかった。

敵は、少なくともシルナを顔面蒼白にするほどの相手なのだ。

一瞬たりとも、油断は出来なかった。

「…許さぬ…」

正体不明のジジィが、憎しみを込めた声で呟いた。

…何…?
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