神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「どう?令月君、何育てたい?」

「僕?そうだな…」

『八千代』はひょうたんを育てたいんじゃなかったの?

すると。

「何を育てても良いけど…。やっぱり甘藷かな」

「…かんしょ?」

こてん、と首を傾げるツキナ。

おいおい、大丈夫か園芸部の部長。

「サツマイモのことだよ」

「おぉ、サツマイモ!良いね!お野菜作りの定番…。…って、サツマイモなら、既に植えてるよ?」

そーだね。

「うん…。でも、いつ何時飢饉に遭うか分からないでしょ?だから、普段からたくさん甘藷を植えておくべきかと思って」

あくまで食糧確保が目的なんだね。

そんなことしなくても、俺達魔導適性があるから、食べなくても死なないんだけど。

でも、いくら食べなくても死なないとは言っても。

いつ何時起こるか分からない飢饉に備えることは、必要だと思う。

ジャマ王国ではたまにあったからね。そういうこと。

国内全体で大きな飢饉が起きて、大勢の国民が飢えて死んだ。

飢饉が起きたとき、まず真っ先に死ぬのは、都市部に住む人間だ。

彼らは自分の田畑を持たず、市場で買ってくる食料に頼ってるから。

市場に食料が回らなくなると、真っ先に都市部の人間が食糧不足に陥るのだ。

その点、自分の田畑を持つ農村部の住民は。

ある程度は自分達で食べ物を作ることが出来るから、食料不足が続いても、比較的長く持ち堪えられる。

まぁ、飢饉が長引けば、都市部も農村部も関係なくなるけど。

そもそも俺達魔導師には、飢饉なんて関係ないけど。

それでも、備えをしておくに越したことはない。

だからそのときの為に、あまり育てるのが難しくなくて、主食にもなる甘藷を育てたい、と。

実に『八千代』らしい思考だ。

そして、俺もその意見には賛成だな。

「じゃあ、すぐり君は?何作る?」

ツキナが、にこにこと俺に尋ねた。

あーかわい。

出来れば、田んぼを作れたら良いんだけど。

この学院の狭い敷地内じゃ、そうも行かないし。

…本音を言えば。

毒薬を作る為に、専用の毒草畑を一つ、作っておきたいけど…。

まさか園芸部の畑に、毒草を植える訳にもいかないから。

「じゃあ、俺はビワを植えるよ。果実が実ったら一緒に食べよう」

「おぉ!美味しそう!楽しみ〜」

喜んでる喜んでる。

ツキナが喜ぶなら、何でもいーや。

…ついでに。

「…ビワ…美味しそうだね」

『八千代』もちょっと嬉しそうだったから、一石二鳥ってことで。
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