シークレット・ガーデン~英国紳士の甘い求愛と秘密~

17.落ち着かないのに、でも安堵する



「リオ、大丈夫?」
「んー……」


 何回果てたのか、記憶にない。けれど珍しいことに行為が落ち着いた後も莉緒は意識をまだ保っていた。
 といってももう元気はどこにも残っていなくて、腕一つ動かすのが億劫で仕方がない状況だったが。


「今日はあの抱き枕ないから、僕を抱き枕代わりにして寝て」
「ふふっ」
 薄暗い部屋の中で、後ろから抱き締めるレオンがそう言う。
「レオンとした後はいつもくたくただから、朝まで夢も見ないよ」
「それはいいね。じゃあ毎日いっぱいしようか?」
「それはそれで体力がもたないです……」


「っていうかさ、これからは毎日僕の部屋で寝よう。こっちの抱き枕は自動抱き締め機能がついてるし」
「甘い言葉もついてくるし、朝起こしてくれる機能もついてるし」
「うん。そっちの方が良くない?」


 身体を重ねればどちらかの部屋のベッドでそのまま、が基本だが、一応まだ二人の寝室は当初のまま別れていた。けれどレオンはもうそれもやめにしたいらしい。


「あのさ」
「うん?」
「莉緒が掛布団を巻き込んで寝るの、昼間言ってた閉所恐怖症、暗所恐怖症があるのかなって」


 昼間の話を、レオンは莉緒が思った以上に気にかけてくれていたらしい。
 布団を巻き込んで寝ているというのは、莉緒としてはそれほど自覚しているクセではなかったので、小首を傾げる。


「どうだろ。そういう風に考えたことはなかった。でも冬の寒い時期なんかは割とちゃんと被ってるような気もするけどなぁ」
 布団を被ると言っても頭まで被る訳ではないし、部屋自体は狭くない。だから夜寝る時に恐怖を感じることはほとんどない。だって布団はその気になれば自分で脱げる。
「多分自分の力で打ち壊せない、いかにも壁です! 脱出不可能です! みたいなのが駄目なのかな?」
 苦手なのだからしょうがない、そう簡単に克服できるものでもないだろうとあまり深く原因を見つめようとしたことがなかった莉緒だが、改めて考えると何か理由があるのかもという気もしてくる。


 理由が分かれば改善できるだろうか。
 苦手なもの、怖いものは少ない方がいい。


「……リオはさ」
「うん?」
 身体に回された腕が、引き寄せるように動く。素肌と素肌がより密着する感覚にすっかり理性を取り戻していた莉緒は羞恥を覚えたが、やはり抵抗する気力は残っていなかった。それよりも睡魔の方がうんと濃く身体を満たしていく。
「……いや、うん、何でもない。高機能抱き枕を採用する件は考えておいて」
「今のこの状況だと、抱き枕にされてるのは私の方だけどね」
「確かに」
「うん、でもこれ、悪くない。私、レオンに、ぎゅっとされるの好き……」


 恥ずかしくて、ドキドキして、触れられていると落ち着かない。
 なのにそれと矛盾するようにホッとして、心地良くて、離してほしくなくて。


「あんしん、するの……」


 呟きと一緒に、意識が霧散する。すとんと眠りに落ちて行く莉緒の耳に、柔らかい声が滑り込んだ。


「おやすみ、リオ」



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