38年前に別れた君に伝えたいこと
彼女の白い吐息を包み込むように、、
優しくそっと、唇を重ねた。
「・・・・」
柔らかな温もりを感じる、
今の僕たちにできる、ほんの数秒の触れ合いが、永遠に続きますようにと願いを込めて、、
彼女は全身の力を抜いて僕に身体を委ねている、
やがて、目を開けると
彼女は瞳に涙を浮かべていた。
「ごめん、、嫌だった?」
僕の胸に顔を埋めたまま首を左右に振ると、彼女は震える声で訴えた、、
「違うの、やっと圭くんの恋人になれた気がする」
「今までは違ったってこと?」
「だって、圭くんには忘れられない人がいたでしょ、
今初めて私の方を見てくれているって確信が持てたの」
そうだった、あんなに別れた彼女の影に苦しんでいたのに、いつの間にか消え去っていた。
僕自身は特に気にして無かったけど、彼女は常に意識していたのだろう。
彼女を無意識に苦しめていたことに気付かされた。
「ごめんね、いつからか彼女のことは忘れてたよ、今は美幸ちゃんのことしか考えてないから」
何度も"ありがとう"ってつぶやく彼女を、
力強く抱きしめた。
ふと夜空を見上げると、南東の空低くに、オリオンが輝いていた。
「美幸ちゃん、オリオン座の神話知ってる?」
「知ってるよ、オリオンは恋人のアルテミスに間違って殺されちゃったんだ、アルテミスのお兄さんのアポロンがオリオンの事を疎ましく思って、アルテミスを騙したんだよね」
「美幸ちゃんは、何でも知ってるね。
お兄さんいたっけ?」
僕が真面目な顔して彼女を覗き込むと、彼女は満面の笑顔で、
「いないよ、殺されなくて良かったね圭くん、
でもね、悲しんだアルテミスは、全能の神ゼウスにお空に上げてもらったの、だからアルテミスは毎晩オリオン座を見てオリオンの事思ってたんじゃないかな」
「圭くん、私がもし死んじゃったらゼウスにお願いしてね、そしたら空の上から、いつも圭くんのことを見ていられるでしょ」
「美幸ちゃんにずっと監視されてるってこと?」
「そうだよ、他の人を好きになったら許さないんだから!」
う〜ん、ゼウスに頼むのは、やめとこかな。