38年前に別れた君に伝えたいこと
帰り際、僕の浮かない顔を見て
「圭くん、楽しくなかった?」
「そんな事ないよ、楽しかったけど、」
「けど?」
「なんか皆んな大人だなぁ、って感じた。美幸が会う度に大人っぽくなっていくのが分かる気がする。」
「私が? そんなに変わったかな?」
「僕が成長出来てないだけかもしれないけどね」
「私は、今の圭くんで十分。大好きだよ」
大人に成れない自分がもどかしい。いつまで彼女が今の自分に満足してくれるのか。不安な気持ちになる。
「ごめんね、嫌な気分にさせちゃった?」
彼女は何も悪くない、悪いのは自分だと言い聞かせて、
「大丈夫だよ、帰ろっか?」
帰りの電車は、予想に反して満員だった。
皆んな帰る時間か重なったためか、
彼女は僕の腕の中で耐えていた、
「大丈夫?」
彼女が顔を上げた時、何かを企む三日月型の子供っぽい目をしていた、
「ん? 何?」
僕の腰に回した手に力を入れて、しがみついた。
こんな状況でなければ、人前で抱き合うことはできないからね。
此処ぞとばかりに抱きつく彼女に
僕は、彼女を守る為に外側に力を入れていた腕を、内側に向けてどうだと言わんばかりに力一杯抱きしめてあげた。
「苦しくないの?」
ふたたび、顔を上げた彼女の口が、
「し・あ・わ・せ」って動いた。