再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜

突然

バタン……。

え? と思った時にはもう目の前の男性が崩れ落ちるように倒れていた。

「大丈夫ですか?」

思わず駆け寄り肩を叩きながら声をかけた。
うつ伏せに倒れており、反応がないのため仰向けにすると顔から出血が見られた。
再度肩を何度も叩き、声をかけるが反応がない。
首元の頸動脈に触れるが触知しない。
心停止だ……。

「誰か! 救急車を呼んでください! AED持ってきてください!」

慌てて腕時計を見ると10時28分。
胸に耳を当てるがやはり鼓動が感じられない。
手にしていたコートを丸めると肩の下に入れ込み気道確保をした。
私はすぐに男性の胸に手を当てると心臓マッサージを始めた。

男性の胸に手を当てると一定のリズムでマッサージをする。
周りの人はみんな眺めているだけで、ふと気が付くと撮影している人さえいる。なんて無神経なんだろう。
私がこうしてマッサージしていても誰も声をかけてきてもくれない。

「誰か! 早くAED持ってきてください!」

私の声に誰も反応してくれない。

「頑張って! 頑張って!」

必死で反応のない男性に声をかけ続ける。
すぐに額には汗が滲み出した。心臓マッサージは全身の力で行うため普段病院では交代しながらやるもので、ひとりでやり続けるなんて無理がある。けれど今、私の手を止めたらこの人は確実に死んでしまう。その気持ちだけでひたすら声をかけ続け、マッサージをしていた。
いつになったら救急隊は来るのだろう、AEDはまだなの? 腕時計を見るとすでに5分近くが経過している。蘇生が遅くなるほどに予後にも影響してくる。汗が流れ落ちるが誰も代わってくれるわけではない。
私はひたすらマッサージをし続けていると隣に男性が座り込んできた。

「さぁ、交代しましょう」

私の手をそっと止めるとすぐに彼は力強く心臓マッサージを開始してくれた。
良かった……力が抜けそうになるがまだ心拍が再開したわけではない。
その時、駅員さんがAEDを持って駆け寄ってくるのが見えた。
私はすぐに男性の服の前を開けパットを貼れる準備をした。
駅員さんからAEDを受け取るとすぐにパットを取り付け、心臓マッサージを交代してくれた彼に声をかけた。

「AEDかけます! 離れてください」

男性は両手を上げ、わかりやすく手が離れているアピールをしてくれた。
私はすぐにボタンを押すとドンッと男性に電気ショックがかかったのがわかった。
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