再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜
「お待たせしました!」

「お疲れさま」

口々にお疲れさまと声をかけてくれる。
待ち合わせたバルは料理が美味しくてちょっとした有名なところだが、平日なので空いていた。
こういうところがシフト勤務でいいところだと思う。
適当に注文するとグラスを上げ乾杯をした。

「この前救急外来で会って驚きました! もしかしたらこれまでも会ってたのかもしれないですね」

紗衣ちゃんが話を振るとみんな笑っていた。

「会ってましたよ! でも俺たちそのくらい記憶に残らないんだな」

笑いながら3人はぼやいていた。

「いつも看護師さんは患者さんにばかり目がいってるから俺たちには見向きもしないからな。医師や事務なら会話も交わすからお互いの顔はわかるけど看護師さんはあまり話さないよな」

確かに私たちは運ばれてきたらすぐに処置に取り掛かる。
申し送りは基本医師が受けるし、付き添いの家族の対応は事務がすることが多い。
要は救急隊員と会話をかわすなんて滅多にないのだ。

「毎回スタッフは変わるけど紗衣ちゃんものどかちゃんも俺たちの中ではかなりいい印象だったからこの前ファミレスでも声をかけたんだ」

そうなの?
ナンパのように毎回声をかけているのかと思ったりしたが、この前話した感じは好印象だったので私たちも今回の飲み会に参加したのだが、向こうにとっても私たちが好印象だったと聞いて驚いた。けれど正直嬉しかった。
ふと夏目さんを見ると頷いていた。

「あ、もしかしてあの時のことも私だとわかってたんですか?」

「いや、知らなかった。しばらくしてたまたま搬送で原島総合病院に行ったんだが、声があの時の人に似てるなと思って気がついたんだ。けど搬送で行ってるし声をかけるようなタイミングもなかったから……」

あのあと夏目さんは私だと気が付いてたんだ。なんだかそれを聞いて恥ずかしくなり少し俯いてしまった。

「あの時の対応は完璧だった。だから咄嗟とはいえすごいと思ったよ」

彼にそう言われるが、本当に恥ずかしい。

「のどかさん可愛いなぁ。その美人な見た目に今の顔ってちょっとギャップでやられちゃいますね」

橋口くんが場を和ませようと茶化してくれた。
けれどなぜか紗衣ちゃんもその会話に参戦してくる。
 
「そうなんですよ。分かります? このクールな見た目に反して可愛い反応。仕事もクールにバリバリこなしてるけどプライベートはめちゃくちゃ可愛いんです」

みんなの目が私に集まり、ますます顔が上げられない。

「ちょ、ちょっと。紗衣ちゃんやめてよ」

私は顔が火照ってきて、思わず手にしていたビールをぐいっと飲み込んだ。

「紗衣ちゃんだって仕事っぷりはできる女って感じだよ。でも雰囲気が可愛くてギャップあるよね」

加藤くんがそう言うと紗衣ちゃんも赤くなっていた。

「私たち救急外来の時は特に必死なの。だからあの姿を見られてるって結構恥ずかしい」

紗衣ちゃんの言葉に私も頷いた。
どんな人が来るかわからないから常に緊張感が張り詰めている現場ではどんどん自分で考えて動かないといけない。だから今自分にできる最善を尽くさなければ、と必死の形相だ。
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