再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜
「俺たちも同じだよ。現場は何が起こってるのかわからない。着いてみて驚くこともたくさんある。だから必死だよ。けど病院に搬送できて、無事に患者さんを送り届けられたと思うと俺たちはやっと一息つけるんだ」

医療現場で働く人はみんな同じなのだろう。
命を扱う仕事は緊張感や責任感が付きまとう。命の重さを感じるからこそ、大切さもわかるのだと思う。

「でも仕事でなくても倒れてる人がいたら即動けるのすごいと思った。だからあれから原島総合病院に行く機会があるたびに何となく佐伯さんのことは気になってたよ」

「裕さん! 堅いですって。今言わないとのどかちゃんって言えなくなりますよ。最初が肝心です」

後輩の加藤くんに言われ、夏目さんは頭をかき始める。見ると彼の耳はほんのり赤くなっていた。

「呼んでもいいのかな?」

「もちろんですよ」

私が頷くと少し表情は固かったが、笑って名前を呼んでくれた。
彼の口から出る「のどかちゃん」と言う言葉に私の胸の鼓動はなぜか高まっていた。
反対に彼が「紗衣ちゃん」と練習するのを聞いてチクっと胸の奥が痛くなった。
この流れで呼ぶのは特に深い意味はない。けれど彼の口から紡がれる私の名前は特別な言葉に聞こえてきた。
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