再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜
翌日、案の定仕事は忙しいが交代の時間になると申し送りをしてさっと上がることができた。
待ち合わせは18時半。
少し早めについてしまい、駅の中をぶらぶらしていると私の好きなバームクーヘンのお店があった。ふわふわと柔らかな食感に、周りにコーティングされている砂糖がいいバランスで、私は見かけるたびについ買ってしまうくらいこのお店のバームクーヘンが好き。ふと、夏目さんの誕生日が先日だったことを思い出した。あの時は何も知らなかったし、ついもらったマフラーを見てなんとも言い難い気持ちになり逃げ出してしまったが私も少しぐらいならあげてもいいよね。SAPに連れて行ってもらったお礼もあるし、と何かしら理由をつけながらバームクーヘンを購入した。あとでこっそり渡せたらいいな、とバッグの中に忍ばせた。

待ち合わせ時間の少し前に戻るとすでに夏目さんがきていた。
私の姿を見つけたのか、片手をあげて合図してくれる。

「お疲れ様です」

「お疲れ様」

今日の夏目さんはダークグレーのチェスターコートにこの前と同じボーダー柄のマフラーをつけていた。
誰も来ない今のうちにバームクーヘンを渡してしまおう、とバッグを開けようとしたら後ろから声がかけられてしまった。

「お疲れ〜」

振り返ると暖かそうなダウンを着込んだ橋口くんがいた。
渡すタイミングはまだあるだろう、とバッグを開くのをやめ肩に掛け直した。
たわいのない会話をしていると紗衣ちゃんと加藤くんが一緒にやってきた。遠くから見ても仲の良さが分かるふたりの雰囲気に何もいえずにいると、橋口くんが口を開いた。

「おいー! そりゃふたりで楽しいだろうけど、早く来いよ」

「悪い、悪い。たまたまそこで会ったんだよ」

そう言いながら顔を見合わせているふたりはなんだか甘い空気が漂っていた。付き合いたての楽しい時期なんだろうなって感じがする。でもそれは気に触るようなものでなく、今の私にはなんだか微笑ましくて、羨ましいものだった。
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