ベッドの上であたためて
気づけばさっきの駅の前まで戻ってきていた。
なんとなく改札のほうへと足が向かず、樹木を囲んでカーブを描くベンチに座る。
この辺りに並ぶ木々に蝉が何匹もいるんだろう。
小さい子供が悲鳴をあげているような声が鼓膜に張り付く。
さっきより少し傾いた太陽はギラギラと地面を焼いていて、ここに来た時よりも気温は高いかもしれない。
それなのに、なんだか寒いな。
…ずっと、寒いままだ。

「ねえねえ、ひとり?」

突然降って来た声に、我に返って顔を上げた。

「お、やっぱりかわいいじゃん」
「ラッキー」

上から私の顔を覗き込む若い2人組の男の子がいる。
私と同じ歳くらいだろうか。
ふたりとも派手な髪色にピアスで、いかにも軽そうな雰囲気だ。

「さっきからずっとそこにいるよね?待ち合わせ?」

さっきからって、私いつからここにいたんだっけ。
今何時なんだろう。
そう思いながらも、腕時計に目を遣る気力もない。

「俺らとどっか行かない?楽しいところいっぱい知ってるよ」
「…楽しいところ?」
「そりゃーもう、ちょー楽しいところだよ、な」
「そうそう」

ふたりはニヤニヤしながらアイコンタクトを取っている。
…3人でホテルか。
こういう若さゆえのノリは、大人の駆け引きみたいな誘い方と違って潔い。
ただ座っているだけでナンパが来るなんて、やっぱり私は物欲しげに見えるのかな。
自嘲しながら小さくため息を吐いた。
このままアパートには帰りたくない。
気を紛らせられるなら、もうなんでも――

「俺の連れになんか用?」

微かに厳しさを含んだ声に、私たち3人が一斉にそちらに目を向けた。

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