もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
「犬飼さんもモテるでしょう?こんなに格好良くて優しかったら」

「オレは、別に優しくない」


きゅ、と眉を顰めて、犬飼さんが私から受け取ったビールを煽った。

すでに酔っ払いの私は、それが間接キスだなんてことにまで、気が回らなかった。


「優しいですよ!子供達に対しても、街の皆さんに対してもそうですし、こんな私を拾ってくれて、しょうもないヤケ酒にも付き合ってくれるなんて、優しくなきゃ出来ない、で、す……」

「……誰でも拾う訳じゃないし、誰にでも優しい訳じゃない── 」


ところが、最後の犬飼さんのセリフは私に届くことはなかった。

なぜなら、ついに睡魔に抗えなくなった私が引き寄せられるように机に突っ伏して、スーッと意識を手放してしまったから。


今日のあれは、恋愛初心者の私にとってとても辛い出来事だったはずなのに、犬飼さんが吐き出せてくれたおかげでだいぶ楽になったように思う。

もう、あんな男に未練を残すのはやめよう── 。

帰ったらネイルも跡形もなくオフして、家に残っている彼の痕跡は残らず捨てるんだ── 。

そんな前向きな気持ちで寝入った私の頭を、温かくて大きな手が優しく撫でてくれていたことに、当然ながら私が気づくことはなかったのだった。






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