もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜

ーー葉菜先生に初めて会ったのは、オレが松並駅前交番に配置転換された、四月のことだった。

鶴咲先輩から、話には聞いていた。

近くのよつば保育園の園児達一行が、たまに午前の散歩で交番の前を通ること。

そこの保育士である葉菜先生が小さくて可愛くて、子供達よりも癒し効果が抜群で、散歩で通り掛かるのを先輩がいつも心待ちにしているということ。

それを聞いた時には別に気にも留めていなかったのに、ある日、子供達の声に混じって柔らかく透き通った声が春風に乗って届き、オレは一瞬で耳を引かれた。

いや、耳を引かれるなんて表現、正しくないことは分かっている。でもそれくらい、町の賑やかな喧騒の中でその声はスッとオレの耳に入ってきた。

そして、子供達に向かってまるで桜の蕾が綻ぶような笑顔をふわりと浮かべた彼女に、耳だけでなく、オレの目までも惹きつけられてしまったのだ。
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