もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜

最初こそ、オレに向けられる葉菜先生の笑顔は先輩や子供達に向けられるものよりもぎこちなかったが、それでも徐々に自然な笑顔を見せてくれるようになり、それが柄にもなく嬉しくて。

いつの頃からか、よつば保育園の園児達が散歩で通り掛かる時間帯の立番は絶対に譲らなくなった。

会えるのは多くても週二回程度ではあったが、おはようの挨拶と少しの世間話、向けられる笑顔。

それに、その日一日を頑張る活力を貰っていた。

だが、配属されて以降"犬飼を弄るのが趣味"と公言するようになった鶴咲先輩が、そんなオレを弄らない訳はなく。


「おやおやー?犬飼も葉菜先生にメロメロ?恋しちゃった?」

「……そんなんじゃないです」


ニヤニヤしながら小突いてくる先輩に、オレは渋面を浮かべそう答えていた。


ーーそう。そんなんじゃない。

そんなんじゃ……、ないはずだった、あの日まではーー。


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