もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜

あれは、うるさいほどの蝉時雨(せみしぐれ)が降り注いでいた昨年の八月。

茹(う)だるような暑さの中、巡回連絡で管轄内を回っていた時。

いつもはナチュラルなメイクに動きやすい服装とスニーカー、梅雨の終わり頃からはバケットハットを被って子供達とやって来る葉菜先生が、華奢なヒールのサンダルを履き淡いピンクのワンピースを靡かせて、保育している時とは全く違う姿で男と歩いて来るところに出くわした。

いつも散歩の時に「おはようございます」と挨拶してくれるのと同じ笑顔で「こんにちは」と会釈してくれた彼女のあまりの綺麗さに、危うく挨拶を返すのを忘れるところだった。

それでも何とか挨拶だけは返しその姿を無意識に目で追えば、彼女から隣の男に向けられたのは、少女のような恥じらいを乗せたキラキラした笑顔。

葉菜先生からは幾度となく笑顔を向けられては来たが、その笑顔は、今までオレに向けられたそのどれとも違っていた。

あれは、きっと葉菜先生が特別な男にだけ見せる顔。

そう理解した時、オレの心はまるで真夏の太陽に焼かれるアスファルトのようにジリジリと焦がれた。


ーーああ、この感覚を、オレは知っている。

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