もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
「……ははーん?じゃあ〝いぬのおまわりさん〟絡みだ?」
「うっ……」
着替えながらニヤニヤと顔を覗き込まれた。
この親友は、こういう時の勘が鋭くて困る。
風香にはフラれた日、犬飼さんに拾われて看病してもらったことは話していた。
「あれから何かあったの?」
「……特に何も……」
ないからこそ、このため息なのだ。
あれから一度、犬飼さんの都合の良い日を確認してから、お礼の品と共にお借りしていたスウェットをお返ししに伺った。
流石に交番で渡す訳にはいかないので自宅へ。
そして改めて感謝の気持ちを伝え、深々とお辞儀をしながら件の品を差し出せば、玄関先で逆に彼を恐縮させてしまったことは記憶に新しい。
でもその時点では、間違いなく私はまだ彼に対してそういう感情を持ち合わせてはいなかった。
それなのに、いつの間にかふとした時に無意識に彼のことを思い浮かべるようになってしまったり。
お散歩の時、彼の姿を見ただけで心臓がとくんと甘く跳ねたり。
話しかけられれば嬉しくなったり。
明らかに、私の中で私の犬飼さんに対する気持ちが少しずつ変化していて、正直戸惑った。
失恋したばかりなのに。
犬飼さんの私に対する優しさには、何も特別な成分など含まれていなかったのに。
それなのに多分、私は犬飼さんに惹かれている。
彼の、きっと誰にでも平等であるはずの優しさに、うっかり落ちてしまったのだ。
……さすがに自分がちょっとちょろ過ぎて心配になるし、何よりもこんなに移り気な女だったのかと、今まで知らなかった自分の一面に落胆したりもした。
だから風香には、私の中に芽生えてしまった犬飼さんへの気持ちはまだ言えていなかったのに。