もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
「っ、今日はこの前の家飲みの上書きに来たので!もともとお酒は弱くないですし、任せてください!」
「……ふっ、そうか」
この人が、実はちょっと意地悪だったりサラッと〝可愛い〟なんて言ったり、はたまたこんな風に柔らかく表情を解す人だったんだということを、私は少し前まで知らなかった。
それだけ以前よりも距離が近づいたんだと思うととても嬉しいけれど、純粋にそれだけではなくて、もっと近づきたい、もっといろんな表情が見たいという気持ちも同時に湧いてきてしまうから戸惑う。
今だって十分すぎるくらいなはずなのに、こんな感情を抱いてしまう私はなんて欲張りなのか。
いけない、いけない。
余計な気持ちを振り払うようにぶんぶんと首を振れば、それを見ていた犬飼さんが首を傾げた。
その仕草に思わず笑みが溢れて、私の邪な気持ちはひとまず退散していってくれたのだった。
「── えっ!犬飼さんの弟さんって、双子なんですか⁉︎」
楽しく晩酌をしながら、話題はお互いの兄弟のことになる。
弟さんが二人いるというのは前に看病してもらった時に聞いていたけれど、まさか双子だったとは驚きだ。
「ああ。しかも一卵性だから瓜二つだ。幸い目の下のホクロの位置が左右逆だからわかりやすいが」
「へぇ……!犬飼さんとは似てますか?」
「いや、どうだろう。……あー、でも目つきが悪いところはそっくりだって言われるな」
「ふ、はは…っ。ちなみにお名前は?」
「亜貴と多貴。どっちも〝貴〟はオレと同じ貴いの貴。〝亜〟はアジアの亜で、〝多〟は多摩動物公園の多。今は大学三年、だったな、確か」
……名前、お揃いだ。
そんな風に柔く表情を解して弟さんのことを語る犬飼さんはすっかりお兄ちゃんの顔をしていて、兄弟仲の良さを伺わせる。
またひとつ、新しい表情を知れた。
それだけで嬉しくなってしまう私は、なんて単純なんだろう。
「葉菜先生のところは?似てる?」
「菜乃とは、……あ、うちの妹、菜乃って言うんですけど、私が母似で菜乃が父似なのであんまり似てなくて」
「葉菜と菜乃か……。〝菜の花〟になるな。ひょっとして名前の由来に関係してる?」
「あ……、は、い……」
だけど私は両親の思い出の場所がとある公園の菜の花畑で、だから私たち姉妹の名前はそこから取られたんだと、そこまでの説明を続けることができなかった。
ただ率直な感想を述べられただけなのに、優艶な笑みで〝葉菜〟とその柔らかな低音が紡いだことに、私の脈拍が途端にスピードを増して呼吸すらも圧迫してしまったから。