もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
「……無理に笑わなくて良い。一体いつからここにいたんですか。すごく冷えてる。送って行きますから風邪を引く前に帰りましょう」


上手く笑えなかったのは、寒さで表情筋が凍てついてしまったからか、それとも。


「……嫌です」

「え?」


私の頬から手を離し、今度は私の腕を取って立ち上がらせようとしていた犬飼さんは、明らかな拒否の言葉を告げて腰を上げようとしない私に戸惑いの声を漏らした。


「帰りたく、ないんです。家には彼との思い出があり過ぎるから。二股を掛けるような彼でも、好きだったから……」


言いながら、ポロリと涙が溢れた。

これは、ちゃんと自覚があった。


……ああ、どうしよう。やっぱりまだ、笑い話には出来そうにもないらしい。悔しいなぁ……。

掴まれていない方の手で慌ててゴシゴシと目を擦る。


「……分かりました。じゃあ、オレが葉菜先生を拾っていきます」

「……え?」


一瞬、私は自分の耳を疑った。今犬飼さん、拾って行くって言った?


「捨てられた葉菜先生を、オレが拾っていく。このままここにいたら本当に風邪を引いてしまう。ヤケ酒でもからみ酒でも元カレ宛ての罵詈雑言でも何でも付き合いますから、とりあえずオレの家に行きましょう」

「えっ⁉︎いや、でも……!」

「帰りたくないんですよね?」

「は、はい……」

「どこか、居酒屋とかに行っても良いですけど、そんな明るくて賑やかな所で飲む気分でもないでしょう?」

「は、はい……」

「それにオレは葉菜先生も知っての通り、警察官だ。安全、安心の象徴だと思いますけど」

「で、でも犬飼さん、彼女とか……」


こんなに優しくて格好良い人だ、いてもおかしくはない。

いくら〝帰りたくない〟と駄々をこねる子供のようになっている、ただの知り合い程度の私を保護するための行動とは言え、犬飼さんにいらぬ迷惑はかけたくない。
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