人間オークション       ~100億の絆~
―咲月side—

命(みこと)と麗亜の会話を盗み聞きしていると俺の携帯のバイブが鳴った。もちろんメッセージを送ってきたのは且功。


『今すぐ僕の部屋へ来い』

主従関係がなくなって携帯を持たされたと思ったらやたらと携帯で呼び出されたり電話が来ることが多くなった。俺としては今に限っては伝えたいことがあるから便利だけどメッセージのやりとりをしているのが且功だけだってことは気が滅入る。

「咲月、いきなり呼び出して悪い。」
「いや、俺も伝えることがあったから丁度良かった。」
「伝えること……?」

「命(みこと)と麗亜、手を組みそうだよ。さっき部屋を覗いたら、命(みこと)が麗亜を応援したくなった、なんて馬鹿みたいな会話してたよ。」

「お前の用事はそんなくだらないことか。それなら僕の用事を言わせてもらう。人間オークションの件だが……」

「主催者まではまだ調べがつかないけど、命(みこと)が言っていた弥生里香の調査は済んだよ。弥生里香の落札者は睦月実彦(むつきさねひこ)っていう男。人間オークションに問い合わせたら最初は渋って言わなかったけど命(みこと)の落札者の代理の者だって言ったらあっさりと教えてくれた。」

「随分と運営側も間抜けだな。本当に代理の者かも分からないのに簡単に情報を提供するなんて。」

「いや、そんな間抜けでもなかったよ。最初は人間オークションの参加者だって言っただけ。それだけだと全然相手にされなかった。でもその後に命(みこと)の名前を出して落札者ってことを言った瞬間、こう言われた。200億をお渡ししますから、長月命(ながつきみこと)を譲ってほしい人がいるって。」

「それで?お前は何て言った?」

「落札したものを譲る義理はない。長月命(ながつきみこと)を渡してほしいならその相手と直接会えないかと聞いた。それで且功にどうするかを聞きに来たわけ。」

「つまり整理すると、弥生里香のことを聞いたらなぜか命(みこと)を取引したいという話になったということだな。その睦月実彦と連絡が取れれば弥生里香に近づくことはできるか。」


「……でも俺は睦月なんて財閥聞いたことがない。弥生里香は37億で落札されたらしい。如月家には遠く及ばないがそれなりの財力はあるみたいだよ。」

「分かった。その睦月実彦とは一度会って顔を知る必要はあるな。咲月、お前はどうにかその男の連絡先を…」
「もう連絡済みだよ。会いたいと言ったらすんなりと連絡が取れた。ただ、一つ問題がある。」
「問題……?」

「命(みこと)にも同席してほしいとの要望だ。」
「命(みこと)に用があるのか…?」
「いや、それに関しては弥生里香の要望らしい。どうしても命に伝えたいことがあるみたいだ。」

「…分かった。その睦月とは僕と命(みこと)が会いに行く。弥生里香だけでなく睦月からも情報が取れれば少しの手間は省けそうだな。その間に…」

「その間に俺は200億で命を欲しがっている奴のことを調べる。運営側にまで手を回してるんだから簡単に突き止められそうだしね。」


100億をだした如月家に200億で命(みこと)を要求するなんてどんなやつか想像しただけでも吐き気がする。5本の指に入るような大財閥の如月家に喧嘩を売るような真似をする奴ら。もし仮に如月家よりも強い権力を持っているなら突き止めるのは簡単だ。でも、如月家に及ばないような分際なら容赦なく捻り潰す。如月家のためにも、命(みこと)のためにも。


「睦月との接触に関しては僕から命(みこと)に伝える。お前は麗亜に悟られないようにしていろ。」
「まあ部外者に口出されたら面倒だからね。」

「いや、それもあるが神無月家が人間オークションと何ら関わり合いがないことを証明できるまでは麗亜のことも信頼できない。麗亜は人間オークションのことをひどく嫌っていたがもしそこに何かしらの理由があるのだとしたら疑うべきだ。」

「とりあえず情報の共有は俺と且功だけだってことか。俺もできることはするけど1つだけ約束してほしい。命(みこと)の身に危険が迫ったら必要以上に詮索することを俺はやめる。且功が調べるなら俺は命(みこと)を守る。命(みこと)を無防備な状態にはできないから。」

「分かった。約束する。僕には守るなんて性に合わないからな。」
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