人間オークション       ~100億の絆~
―且功side—

麗亜と命を守るために僕は麗華さんに自分を殺すよう言った。するとすぐに麗華さんがこの会場のどこかにいるスナイパーにナイフで合図を出した。発砲音が鳴る。

だが僕が痛みを感じることはなかった。


命が僕の盾になったから。


「おい、しっかりしろ、命!命!」
「命ちゃん……なんで……。」


会場にいる参加者も危機を察したようで我先にと会場を出ようとし始める。そんな中、目の前で倒れた命を抱き起し名前を呼ぶが何も返事はない。その間からも命の身体から血が流れだしている


「命……そんな……。」

「大丈夫だ、まだ息はある。下手に揺するな。今救急車を呼ぶ。」

「わ、私……なんてこと……命ちゃんが。」


予想外の出来事に麗華さんもショックを受けている。その間に理人さんのSPが麗華さんを拘束するがショックで口も聞けなくなっている。

「命、このまま死んだりしたらダメだ!命、命!」
「かつ…いさ。」
「命、意識はあるんだな……今救急車を呼ぶから。」

「且功はいつも強い人。涙を滅多に見せない強い人。だけどね、強くなくてもいいんだよ。生きている限り、命(いのち)ある限り喜びも悲しみも一生付き纏うものだから……前に進むことができるなら泣いてもいいんだよ。」


そう涙を零しながら僕の目元を命が撫でる。僕の涙を拭いてくれているのか。

「強がっているのはお前も同じだ。なんでこんな時まで人のことを話すんだ。僕は…僕の命(いのち)があるのは命(みこと)がいてくれるからだ。前に進めるのは命(みこと)がいるからだ。楽しいと思えることも悲しいと思えることもお前が教えてくれた大切なものだ。僕のために生きるんだ。絶対にお前を死なせない。」


そう言って命にゆっくりと口づけた。


「且功、命はもう……意識を失っている。」


僕のキスなんか覚えてくれてなくていい。これが最初で最後のキスでいい。こんな僕でも人を愛することができた。僕はそれ以上のことは望まない。


「裏に救急車が来てくれたみたいだ。隊員を呼んでくるよ。麗亜、お前にも事情があるのは分かるが且功を頼む。」
「わかりましたわ。」


僕は神なんて信じてこなかった。そんなものいないと思っていたから。

だけど……だけどもし、本当にいるなら……もう僕は何も望まないから……だから命の命を助けてください……





僕はもうこの先の幸せなんて望まないから。
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