人間オークション       ~100億の絆~
―咲月side—

あれから日が経つが一向に且功の行方は分からず、麗亜からの連絡も薄れてきていた。

「ねえ、咲月さん、聞いてる?」
「ああ、すまない。少し考え事をしていた……。」

「もしかして、付き合ってる人のこと考えてたとか?」
「そんな相手、俺にはいないよ。」

このまま、命(みこと)の記憶が戻らなかったら…どうなるんだろう。命(みこと)の中に且功の存在が戻らなかったら…。且功が諦めるようには思えない。でも…命(みこと)のためを思ったらこのまま消えてしまうかもしれない。そうしたら…俺はどうするべきなんだ。

「もしかして咲月さんって麗亜さんのことが好きとか?」
「そんなわけないだろう。第一麗亜は且功の婚約者だったんだから。」

「且功さんの……婚約者…?」

しまった。命(みこと)の声で口元を慌てて抑えるが出してしまった言葉を取り消すことはもうできない。不思議そうな顔をしながらも俺の顔を見てにこにこと笑顔を向ける命(みこと)。

「そっか、だから私は且功さんのことを知らないんだね。でも…なんで私の身体は且功さんのことを知っていたんだろう…?」


そうじゃない、そうじゃないんだ。且功はお前のことが好きだったんだ。お前のことを愛していたんだ。お前のことを特別だと思っていたんだ。

「お前は……すべて、忘れてるんだよ。且功とは何回も会っていたけど命の相手じゃなかった。お前の相手はちゃんと他にいるんだ。」

このまま命(みこと)の記憶が蘇らなければ俺が命の傍にいることができる。命(みこと)と一緒に人生を歩んでいける。

いつまでもすぐ傍で。

「俺と命は付き合っているんだ。」
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