人間オークション       ~100億の絆~

Episode14

―麗亜side—
命(みこと)の世話をするようになってから且功さんは狂ったかのように仕事をするようになった。彼は部屋から滅多に出てこず、食事は出前などをとるだけ。

「且功さん、もう3日もずっと仕事をされてますよね。少しは休んだ方が……。」
「今の僕にできることは仕事だけだ。麗亜は好きに過ごせばいい。」
「命(みこと)が貴女を忘れてしまったことがショックなのは分かります。でもずっと仕事ばかりでは且功さんが倒れてしまいますよ。」

「僕は…なにもできないんだ。命(みこと)のためにできることが何一つないんだ。僕は……。」

いつもの冷静な且功さんではない。一人の女の子に影響される一人の男の人。それまでに命(みこと)の存在が大きいのが見ているだけで分かる。

「命(みこと)の記憶は私たちが必ず取り戻します。だから、無理をして体を壊すようなことはしないでください。きっと、命(みこと)もそんなこと望みません。」
「……眠れないんだ。」

「え……?」

「夜になって寝ようとするたびに命(みこと)が撃たれた光景を思い出す。命(みこと)が死んでしまうのではないか、もう命(みこと)は僕のもとには戻ってきてくれないんじゃないかと思うと恐怖で眠れないんだ。誰かを大切に思うことなんてなかった僕にはどうすればいいか分からない。」



「もう……貴方のそのような姿を見るのは私も辛いんです。且功さん、お願いです。命(みこと)を諦めて…私を選んでください。私が命(みこと)の分まで貴方に全てを捧げます。私を命(みこと)だと思って接してくださって構いません。私は貴方と…貴方たちと生きるために神無月を捨てました。だから、お願いです。私を選んで……。」


こんな私の感情を押し付けるような言い方は且功さんが一番嫌うこと。それでももう壊れていく且功さんを見るのは辛かった。私が代わりになれるのなら代わりになりたい、麗亜としての私を愛してもらえなくても、彼が少しでも幸せに感じてくれるのであればどんなことでもしたいと思った。

「まさか本当に……神無月家を捨てたのか……?僕なんかのために……。」

「最初は捨てる覚悟なんてできませんでした。でも、命(みこと)と出会ってここで過ごすようになって家を出る覚悟が決まりました。だから……私を選んでください。」

「すまなかった……でも僕には命(みこと)しか考えられないんだ。本当に悪いと思ってる。だが、命(みこと)との未来しか僕には考えられないんだ。」


こんなときでも貴方は自分の意志を貫き揺るがないのね。気高く誰よりも自分に厳しく強くあろうとするその姿。私が心を奪われた貴方の姿。そしてそこに加わった新たな貴方の姿。


「私は……且功さんが決めたことを受け止めます。そして命(みこと)と出会えたことに感謝をしています。命(みこと)がいたから貴方は変わった……変わってしまった。でも、それは私も同じこと。命(みこと)と出会って大切なことを学びました。命(いのち)ある限り生きること。それはとても大変で美しいこと。決められた生き方をするのではなく自分で未来を切り拓く。こんなにも困難でそして楽しい生き方は他にありません。」

命(みこと)がいてくれたおかげで私たちの関係はこうも変わってしまった。決して二度ともとに戻ることはないこと。でもその世界こそが私たちが生きていくべき世界。なにが起こるか分からない人生。だからこそ命(いのち)ある限り生き、後悔のない人生にする。
私たちが生まれてきた意味。

そう、悟った翌日、且功さんが私の世界からいなくなった。
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