人間オークション       ~100億の絆~
如月さんの話を聞いている中で私の中に不思議な感覚が沸いてきた。たしかに咲月さんへの好きという気持ちは私の中にある。だけど、それとは違った…でも似ているような感覚を且功さんに抱いているようなことに気が付いた。それは如月さんの話に影響されているからかもしれないけど、少なくとも、私を苦しめるような存在ではなくて、なにか大切な存在なのかもしれないと思った。

「君は彼が手にキスをしろと言ったことを覚えているかい?彼はその時君がキスしなかったことを未だに根に持っているらしい。全く、子どもらしいと思うよ。今まで何にも興味を持たなかったのにそんな我が儘を言うようになったんです。人間らしくなったんです。」


私がキスをしなかった。もちろん私にはキスをしたのかもしていないのかも記憶にはない。だけど、如月さんが言っていることはなにかが違う気がする。


「私はずっとキスをしていないですか?」
「そうだよ、命(いのち)ある限りキスなんてしないと言ったらしいから。」

「なにか…なにかが違うです。私、且功さんのこと、思い出せないけど……分からないけど、キスをしたことがある気がするです。」
「え……?」

「……分からないけど、覚えていないけど私、且功さんとキスをしたです。」


なんだろう。心の中にある違和感。私からキスをした覚えはない。だけど、且功さんのぬくもりが私の中にある気がする。


私はいつキスをしたの…?もしかしてキスをされたの…?それならまたキスをすれば何かを思い出せる……?


「その…且功さんは今どこですか?」
「知ってどうするの……?」

「会いたいです…会ってキスをした理由を聞きたいです。どうしてキスをしたのか、なんでキスを…してくれたのか。できることなら且功さんともう一度キスをしたいです。」

「そう…なんだ。でも、彼と会ったら君がまた辛い思いをするかもしれないよ…?」
「それでも、思い出さなきゃいけない気がするです。とても大切でなくしちゃいけない気がするです。大事なことなんです。」


「そう……そこまで君の覚悟が決まっているなら大丈夫そうだね。」
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