貴女は悪役令嬢ですよね? ─彼女が微笑んだら─
しかし、伯爵令嬢とふたりきりにしてくれと、命じられたのは初めての事なので、どうするか悩みどころであった。
私達の視界内に、いつもふたりは居たのだ。

この逢瀬が最初で最後の一回だとしたら?


バルモン伯爵令嬢のバックグラウンドは既に調べは付いていた。
怪しい繋がりは見当たらない家門であったし、長女のミレーユ嬢は一人娘であったので、婿を取って伯爵家を継ぐ身だ。
将来的に殿下に嫁ぐことにはならないと思えた。

結局、私達はこれが最後なら黙っていることに落ち着いた。
これからもふたりきりにしろと言われたら、直ぐに報告。
それで決まりだ。

殿下と伯爵令嬢のふたりで放課後まで過ごすのなら。
それまでは私はゆっくりさせて貰おう。
そう思って、図書室へ行く事にした。
すると、そこに思わぬ人物が居た。

モンテール侯爵令嬢。
リシャール殿下の婚約者だ。
彼女はこの曜日は午後から王太子妃教育の日で、午前中で早退をしている筈だった。
だから、多分殿下は今日、伯爵令嬢と……


「マルタン様、お珍しいですわね。
 おひとりですか?」

「どうしても読みたい本がありまして、授業中ならば行ってもよいと殿下がお許しくださったのです」

「殿下は授業を受けていらっしゃるの?」

「左様です」


ちゃんと答えられたか?
私の背中を冷や汗が流れた。

侯爵令嬢が、俺が手にした本の題名を読んだ。


「ルーデンワルツ語の本ですか。
 あの国の言葉の響きは素敵ですね……」

殿下と私の嘘を暴こうとしない、侯爵令嬢に。
大いなる感謝と少しの恐れを感じた。
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