貴女は悪役令嬢ですよね? ─彼女が微笑んだら─
どうしてそんな底辺の令嬢に私が詳しいのか。
それさえも兄は気にしていないようだった。

答えは簡単だ。
『好きだ好きだ』と、迫られたからだ。
だが私だけではないのも知っていた。
あちらこちらに声をかけて、反対に声をかけられたら断らない。

私は絶対にそんな女は嫌でお断りをしたが、この肉欲に火が着いた愚か者はきっと引っ掛かる。
まともに考えたら、きちんと健康状態も素行も調べて選ばれた子爵家の娘の方が良いのに、こいつは、きっと……

私は名前を告げただけだ。
口説くのが簡単な、若い女がいるとだけ。


私が確信していた通り、年齢の割に経験豊富な男爵令嬢に王太子は溺れた。
それが肉欲か愛か、区別がつかなくなる程に。
王命で結ばれた身持ちが堅い婚約者に婚約破棄を告げる程に。


単に婚約解消を伝えるだけで良かったのに、何がしたかったのか、王太子と男爵令嬢は、わざわざ祝いの宴で婚約破棄を宣言して、婚約者に冤罪をかけた。

それも何十年も前に実際にあった王室の醜聞になぞらえて。
誰であろうと触れてはならない恥の記憶を思い出させた上に、血筋の繋がる筆頭公爵家の令嬢を無実の罪で陥れようとしたのだ。
廃嫡くらいで済む筈はなかった。
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